第4話 今村さんは負けず嫌い
可愛くて、お洒落で、成績優秀で誰にでも優しくて、学内カースト最上位に位置する今村さん。
ただのクラスメイトだった頃は、彼女に対してそんな完全無欠なイメージを抱いていた。——しかし彼氏役になって、それは俺の間違いだったと気付く。
……実際の今村さんは、完全無欠とは程遠く、人間味溢れる、愛すべきキャラと言うか——割とポンコツだった。
——今村さんは格ゲーが好きで、家にお呼ばれしたときは毎回のように対戦するのだが。
「だあぁ————っ! なんで勝てないのよ! 浅井チートでしょ? チート! なんか細工したでしょ!」
「……いや、これ今村さんのゲーム機じゃん」
——超がつくほど下手くそだった。初めてプレイするゲームでも2、3回対戦すれば大抵勝ててしまうほどに。
「ぶぅ——っ、つまんない!」
負けが込むと機嫌が悪くなるので——
「やった! 勝ったよ! 見た浅井? 私天才!」
たまに手心を加えてあげる必要がある。
……でも、それに気付かず、全力で喜んでいるところが、めっちゃ可愛かったりする。
ちなみに……手心を加えなかったりタイミングを間違えてしまうと——リアルプロレスに変わる。
「うりゃぁ!」対戦中にヘッドロックを掛けられて、色んな意味で昇天しそうになったこともある。
頬から伝わる感触だと……恐らくDは固いと思う。
なかでもスリーパーホールドは、本気でやばかった。
「まいったか浅井? まいったって言え!」
タップをしても全然離してくれなかったのだ。——本人
——そして今日もまた。
……俺は手心のタイミングを間違えてしまった。
「第二ラウンドよ……遠慮なくかかって来なさい」
「いや……かかって来なさいって言われても」
「浅井が来ないなら私から行くわよ」
「え……ちょっとまって」
「うりゃっ!」
ゲーム機もテーブルもそのままに、タックルで仕掛けてくる今村さん。俺はなされるがままに押し倒された。
「くっ……」
「相変わらず、隙だらけね」
「いや、普通格ゲーしててタックルされるとは思わないからね!?」
「志が低い!」
「ひぃっ!」
傍目にはカップルがいちゃついているようにしか見えないかも知れないが、俺はわりと必死だ。
今村さんは結構力が強くて、本気で抵抗しないと簡単に関節を決められるからだ。
「ちょっと待って! 今村さん、何するつもり? マジやめてっ!」
「勝負の世界にまったはないのよ!」
そして今日の今村さんは——全力で腕を取りに来た。
これはもしかして……腕ひしぎ逆十字固め!?
「観念するのね浅井!」
「無理っ!」
腕を取らせないために両手をしっかりと
こ……これは……あんまり派手に抵抗すると胸を触ってしまうことになる。精神的な揺さぶりなのだろうか? つーかさっきよりも数段、引っ張る力が強い。いずれにせよ——なんて高等テクニックなんだ。
「うぐぐっ……」渾身の力を込めて耐えた。だが脇を締めグイグイと体に密着させられて、ついに俺は力尽き……完全に腕を取られた。
「浅井まいった? まいった?」
色んな意味でまいった。俺の腕は今村さんの胸の間にしっかりホールドされていたのだから。
「……今村さん、いいの?」
「何が?」
「俺が抵抗したら……胸……触っちゃうことになるけど」
一瞬力が抜けた気がしたけど、それは本当に一瞬過ぎて、腕を抜くことはできなかった。
「いいわよ……できるなら、やってみなさい」
え……マジで。
「その代わり、この腕はもらうわ!」
「ごめん! まいった! 参りました!」
「分かれば良いのよ」
役得もあるけど……一歩間違えれば大惨事になってしまう。
ただのクラスメイトだった頃は、今村さんがこんなに勝負に熱い人だとは知らなかった。
そして——こんなにも手段を選ばない人だとも。
「今日は私の勝ちでいいわよね?」
「うん……いいよ」
「やったね!」
でも、2人でいるときに見せてくれる今村さんの笑顔は控えめに言って最高だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます