第5話:異常事態

「何度やっても同じ結果ですか。

 ただプリシラの作業量が減るほど成長も遅くなり実りも少なくなる。

 明らかにプリシラの力ですね。

 これは豊穣の聖女の力だと思われます。

 しかし聖女に選ばれたのはペネロピです。

 だとしたら考えられる事は……」


 母上様が言葉を濁されました。

 何かとんでもない事が起こっているのでしょう。

 私も何かしなければいけないのかもしれません。

 ですが私には何の力もありません。

 豊穣の聖女だと言われても、それを人々のために役立てられるような、元となる知識や能力がないのです。


「しっかりと意識を保って聞きなさい。

 何を聞いても慌てることなく、レディに相応しい態度で聞きなさい。

 分かりましたね、プリシラ」


 母上様がとても真剣な表情をされています。

 半年もの時間をかけて調べられた事を話してくださいます。

 私に備わった豊穣の聖女の力と、ジェラルド王国に残ったペネロピの事。

 彼女も一緒に逃げてこられたらよかったのですが、あの時は不可能でした。

 癒しの聖女の力を備えたペネロピは王家に幽閉されていましたから。


「どうやらペネロピは聖女ではなくなってしまったようです。

 母親を殺されたうえに、チャールズ王太子に手籠めにされたようです。

 その恨みをジェラルド王家だけに向けずに、全ての人間に向けたようです。

 周辺国と戦争をさせるようにジェラルド王家を誘導しています」


 うそ、嘘です、信じられません。

 あの優しかったペネロピがそんな事をするなんて。

 でも、母上様が調べさせたことなら本当の事なのでしょう。

 母上様が嘘をつくはずがありませんし、私を騙す理由もありません。


「プリシラ、貴女に確認しておかなければいけない事があります。

 プリシラはペネロピと戦う覚悟ができていますか。

 ペネロピは全ての人間を恨んでいます。

 その中にはプリシラも含まれているのです」


「そんな事は無理です、できません。

 私に戦う覚悟などありません。

 そもそも誰かを殺す事なんてできません。

 特にペネロピを殺すなんて絶対に無理です。

 そんな恐ろしい事をする度胸はありません」


「分かりました、だったら私に任しておきなさい」


 母上様の表情がとても厳しいです。

 

「まさか、ペネロピを殺したりはしませんよね」


「プリシラ、これは王侯貴族に生まれた者の責任なのです。

 ペネロピは全ての人間を恨んでいます。

 恨みを晴らすために殺されるまで他の人間を殺し続けます。 

 私には領主として領民を護る義務があるのです。

 相手がペネロピであろうと殺さなければいけないのです」


 そんな、そんなのは嫌です。

 あの優しかったペネロピを殺させるわけにはいきません。

 まして母上様がその手を血で穢すような事は見過ごせません。

 でも、私ごときに何ができるでしょう。

 聖女になったとはいえ、私にできるのは実りを増やす事だけです。

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