第4話:スローライフ

 母上様がフォード公爵家から台所領として割譲された所で暮らしました。

 私は女伯爵となられた母上の後継者です。

 とは言ってもそれは母上が再婚されて男子が生まれるまでの話です。

 この世界も男子が最優先です。

 母上様が女の身でいきなり伯爵に襲爵される事の方が常識外れなのです。


「プリシラ、これにもちゃんと裏があるのですよ。

 私がこれほどの待遇を受けることができれば、今政略結婚して他国にいる女性は、死に物狂いで国のために働きます。

 敵国の血が半分流れている子供も後継者に認められるのです。

 母性が邪魔する事もありません」


 母上様に真相を教えていただいて唖然としました。

 単には母上様の労苦に報いただけではないのです。

 国の政治の恐ろしさに震えてしまいました。

 母上様は本当に才能も胆力もおありなのですね。

 とても私にはついていけません。


「そうなのですか、全然分かっていませんでした。

 私のような非才の人間は、大人しく領地で農作業でもしています。

 その方が穏やかに暮らしていけると思います」


「そうですね、貴女のような心優しい子は、土と共に生きる方が幸せですね。

 幸い父上が私に下さったこの領地はとても豊かです。

 貴女のための農地を見繕ってあげましょう」


 母上様の申されるように、この領地はとても豊かです。

 農地がとてもよいのだと思います。

 貧しい土地では蒔いた種の三倍の収穫しかありません。

 しかしこの領地では蒔いた種の十倍の収穫があります。

 実もとても大粒で甘みのあるモノが収穫できます。


 しかもこの領地は魔境に接しています。

 魔境から魔獣や魔蟲が溢れ出る事はありませんが、こちらから狩りにはいけます。

 だから猟師の腕次第で多くの魔獣や魔蟲を狩ることができます。

 この領地では男女関係なく弓も剣も使えるのです。

 まあ、豊かになりたくて狩りの腕を磨いたともいえますが。

 そのお陰でこの領地の民はとても豊かです。


「母上様、大変です、母上様」


「いったい何事ですかプリシラ。

 これほど騒いで大したことでなかったら注意しますよ。

 レディたるもの、いつも優雅で堂々としていなければいけないのです」


「申し訳ありません、母上様。

 でもこれを見てください、昨日植えたばかりの瓜がこんなに大きく実ったのです」


「これは、確かにあまりにも大きすぎますね。

 プリシラが畑に種を蒔いたのは昨日が初めてです。

 畑に何もなかったのは私も見ています。

 確認します、直ぐに案内しなさい」


「はい、母上様」


 何かとんでもない事が起こったようです。

 畑仕事を教え手伝ってくれている農家出身の侍女が異常だと言うので、確認のために母上様に聞いてみましたが、博識の母上様がこんなに驚いているのなら、本当に異常事態なのでしょう。

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