第3話:報奨

 私と母上様はジェラルド王国から逃げ出しました。

 本当に大変な逃亡劇でした。

 父であるリンスター公爵の追撃を振り切るのも大変でした。

 悪政で増えた山賊や盗賊との戦いも大変でした。

 そもそも悪政で街道が崩壊しているので馬車がよく壊れてしまいます。

 でもそんな逃亡劇はまたの機会のお話です。


 母の母国であるラスドネル王国内に逃げ込んでひと息つきました。

 母の実家であるフォード公爵領に辿り着いてひと安心できました。

 伯父であるフォード公爵モーリス閣下にねぎらいの言葉をかけられて、ようやく心から安心することができました。

 ですが直ぐにまた緊張しなければいけない状況に追い込まれてしまいました。


「フォード公爵家令嬢、レディ・パトリシア・フォード様。

 フォード公爵家令嬢、レディ・プリシラ・フォード様」


 そうです、私達は王宮に呼び出されてしまったのです。

 ジェラルド王国が送り込んだ逆スパイ、ダブルスパイではない事を確かめるために、激しい尋問が行われるのではないかと恐れていたのですが。


「今日までよく頑張ってくれた。

 あのような悪逆非道で愚劣な男と政略結婚させた事、詫びさせてもらう。

 この通りだ」


 なんとエドワード国王陛下が、軽くではありますが頭を下げてくださいました。

 国王が臣下の労苦に報いるために頭を下げるなど、ジェラルド王国では全く考えられない事です。

 私はあまりの驚愕に軽く口を開けたまま茫然自失してしまいました。


(プリシラ、少しみっともないですよ。

 レディらしく優雅に堂々としていなさい)


 母上様に軽くたしなめられてしまいました。

 あまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になってしまいました。


「今までの身を捨てた働きを賞して、フォード公爵家から独立した伯爵位を与える。

 それと金貨千枚の賞金と近衛騎士団司令官勲章を与える。

 非常勤の近衛騎士団司令官として毎年給与を受け取るがいい。

 領地は与えられないが、台所領はそのまま自分の領地とするがいい。

 だがこれだけでは、敵地で十七年間も耐えた褒美としては少ない。

 何か望みがあれば言うがいい、できる限りかなえてやろう」


 凄い大盤振る舞いです。

 ジェラルド王国ではとても考えられない事です。

 ですが最後の報奨だけは流石に与え過ぎなのでしょう。

 それまで全く動じなかった重臣団に狼狽が見えます。

 事前に話し合っていた報奨以上の事なのでしょう。


「ではお言葉に甘えてお願いの儀がございます」


「うむ、遠慮なく申すがいい」


「我が娘、プリシラの身分を保証していただきたいのです。

 父親はリンスター公爵オーガスタスですが、私が手塩にかけて育てた娘です。

 どこに出しても恥ずかしくない令嬢に育てた心算でございます」


 母上様!

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