第2話:相談
「母上、私はペネロピと争いたくないです。
それに王都にいるとまたリンスター公爵に婚約させられてしまいます。
どうか母上の台所領に隠れさせてください」
私は思い切って母上に御願いしてみた。
前世の記憶もあるので、最初は馴染めなかった母上ですが、今では心から甘える事のできる本当の母上です。
前世の母には申し訳ないですが、徐々に存在が希薄になっています。
ただ父に関しては未だに最高の存在です。
今生の父がアレ過ぎるので仕方のない事です。
「まあ、本気ですかプリシラ。
そんな事をすればもう二度と公爵令嬢には戻れませんよ」
母上が真剣な眼で見つめてきます。
私の覚悟を確認する心算なのでしょう。
ですが私も今度こそ覚悟を決めました。
ロージーが父に殺された時に決めた覚悟は、父が怖くて脆く簡単に崩れました。
でも今度こそ本当に覚悟が決まりました。
あんな父の血とは言え、ペネロピは半分血を分けた妹です。
彼女をこれ以上不幸にはできません。
「本気です、本気で公爵令嬢の地位を捨てる心算です。
幸い母上の台所領はラスドネル王国でも中央部にあります。
リンスター公爵でも追手を送り込めないと思います」
母上はとても真剣な眼で考えられています。
色々と計算されているのだと思います。
他国の公爵家に政略結婚させられた母上です。
それは出身国を代表する人質でもあり、この国の内情を調べる偵察役でもあるので、家柄と能力を兼ね備えた令嬢でなければ務めりません。
「分かりました、今が潮時でしょう。
私もこの国を出ます。
このままこの国に残ていたら殺されかねませんからね」
私はまだまだ甘かったようです。
私は自分の幸せとペネロピの事しか考えていませんでした。
でも母上は母国とこの国の状況を詳細に調べておられたのでしょう。
このままでは殺されてしまうくらい両国の関係は悪化しているのです。
そして私を産んだ今でも母国に心を残しているのですね。
「母上様」
「何を情けない顔をしているのです、プリシラ。
私がリンスター王国を選んだのは貴女が公爵令嬢の地位を捨てると言ったから。
貴女の事を愛しているからですよ。
私にとっては母国のラスドネル王国よりも、実家のフォード公爵家よりも、貴女が何より一番大切なのですよ、プリシラ」
「母上様、ありがとうございます」
思わず声をあげて泣いてしまいました。
自分の事ばかり考える身勝手なリンスター公爵の血が恨めしいです。
これほど愛してくださっているのに、少しでも疑った自分が情けないです。
わずかでも前世の母の事を想った事が申し訳ないです。
よく考えれば簡単に分かることでした。
私が逃げたら母上様がリンスター公爵に責められるという事を。
それなのに母上様はその事を全く責めることなく、命懸けでこの国から一緒に逃げてくださるのです。
私の裏切りをリンスター公爵に伝えて幽閉してでも政略結婚させる事も可能です。
母国や実家の方が大切なら、その方が偵察の役目を果たせます。
あんな腐れ外道の血を引き継いだ、身勝手な私と縁を切る事も可能です
それなのに一緒に逃げてくださるのです。
本当にありがとうございます、母上様。
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