第34話

「莉菜」

 

 医師を見送ってすぐ、蓮は振り向く事はせず、背中越しに、話し始めた。


「最初に結論から言うけど。俺、莉菜と結婚したい」

「……」

「莉菜に振られた時。俺、正直、わからなくなった。莉菜の事は勿論大切で、でも、ファンも同じくらい大切で……。どっちを取ればいいのかなんて、全く、わからなかった。でも、今ならわかる。こんな事になって、莉菜がこの世からいなくなるかもしれないってなって、俺は怖かった。今までに感じた事のないくら心が潰れそうになった。たぶん、それはファンがいなくなっても、感じない気持ち。こんな事言ったら、莉菜は怒るかもしれない。いや、かもしれないじゃないな。怒るな、絶対。でも、後悔しないように俺は言う。俺は——。ファン以上にこの世で一番、莉菜の事が大切だ」

「……」

 

 嬉しかった。蓮の気持ちを単純に受け入れたいと思った。でも、それはしちゃいけない事。何度も悩み、考えた事だ。

 蓮はアイドルで、何万、何十万、何百万とゆう人に愛されてる。

 そんな人を、私が独占していい訳が無い。

 だから私は——

 

「あぁー、もう、じれったいなぁ。まだ、そんな所で、うだうだ言ってんの? お二人さん」

 

 しびれをきらした様子で、病室に入ってきたのは、親友の茜だった。

 

「お互い、好き同士なんだからさ。色んなしがらみなんて無視して、結婚しちゃえばいいんだよ」

「そう言う訳にはいかないよ……」

「じゃあ何?、莉菜は蓮と結婚したくない訳? このままさようならして、二度と逢えなくなっても言い訳? それで、いずれ、どこの誰とも分からない他人と蓮が結婚して言い訳?」

 

「そんな訳……。そんな訳ないじゃん! 私だって、蓮と結婚したいよ! 蓮と幸せな家庭築きたいよ! そして——」

「——蓮の事、支えたい——」

「じゃあさ、その言葉のまま行動していいんじゃない?」

「だから、そゆう訳には……」

 

「つづいてのトピックです」

 

「え……?。誰がつけたの?」

「私」

「なんで?」

「いいから」

 

「『須屋 蓮』デビュー間近で脱退。引き留める、署名、10万超え。人気急上昇中のアイドルグループ。キッド・ファクターのメンバー、『須屋 蓮』さんが、昨日、事務所に退所願いを出した事がわかりました。所属事務所、DashA1(ダッシュエーワン)は公式に「退所願いは提出されたものの、受け取っておらず、現在、本人と協議中です」との事。

それに伴い、事務所には須屋さんの脱退を引き留める署名が届き、その数、10万を超ているそうです」

「凄い数ですねぇ……。さて、本日は、芸能リポーターの、「篠崎 聡子」さんにお越し頂いてます。篠崎さん、宜しくお願いします」

「はい。お願いします」

「篠崎さん」

「はい」

「ファンの方の署名活動は、いつ頃から行われているのでしょうか?」

「このように、署名理由が明確になったのは、須屋さんの退所願いの報道があってからでした。ですが、なんらかの形で須屋さんの恋人さんを助けられないか? と言う動きは事件当初からありました」

「あの事件は生放送されてましたからねぇ——。それで、署名とは具体的にどんな物があるんしょうか?」

「退所願いの取り下げと、須屋さんと恋人さんの関係の続行。後者の願いは結婚を助長するような声も多いです」

 

「!っ……」


「「蓮君に彼女がいたのはショックだけど、身を挺して守ってくれるなんて、蓮君のお嫁さんはこの人で決定」「蓮君の彼女、格好よすぎ」「蓮君、彼女さんを大切にね。末永くお幸せに。これからは2人の事も応援します」エトセトラ、エトセトラ。どお? これでも、まだ、意地はるの?」


 莉菜は、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「莉菜」

 

 名前を呼んだのは蓮だ。

 しかし、

 

「ちょっと待って……」

 

 蓮は、無言で頷く。

 

「須屋 蓮さん。私をお嫁さんにさせてください」

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僕は君と結婚したいっ!! @TORIx

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