第33話 奥間①

 社務所しゃむしょを更に先に進んだ奥間おくま採光さいこうがふんだんに取り入れられた天井の高い一室。室内にも関わらず植物はしげり、樹木は部屋を下から上へとつらぬいてすらいるが、デザインの調和はバランス良く見事に保たれている。部屋の奥には「食前感謝」「食後感謝」の掛け軸は大きく、あざやかに飾りつけられ目を引く。


 その室内、綺麗に二列に並べられた座布団の一つにイチ達は居た。


「トットット、どうしたものかのぉ?」


 八千矛やちほこ宮司ぐうじは、変わらず愛用の超低空電動立ち乗りスカイボード(通称:電スカ)に乗り、秩序なく部屋内を動き回っている。本来であればイチの来週の認定試験への判断をする場であったが、それよりも先に解決しなければならない事が起き、集合したみなの予定を狂わせていた。突如現れたセフェクとトトの処遇である。


「 …… 」


 セフェクは一貫して黙している。


「 …… (相変わらずの圧倒的な自己主張で勢い任せに喋るかと思ったら、随分静かだなぁ)」


 イチはチラチラとセフェクを見ては不思議そうな表情を浮かべていた。


八つ国やつくにに保管されている記録をデータベース内で隅々まで覗きましたが、セフェクさんの仰るお話の裏付けは残されていないようです」


 八千矛やちほこの補佐である八門はちもんは、身の回りを幾重にも重なるデジタル画面に囲まれ、様々な情報へのアクセスを行い必要な情報を集めようとしている。


「お前ら八つ国ウチへの敵対てきたいはねぇんだろ? 外へ出て行くっつーわけだし、やからじゃねぇなら外へほおって終わりでいいんじゃねぇんですかねぇ?」


 開円かいえんがこの手の判断は直観的すぎて向いていないのは、誰もが理解している様子だった。


「開円様、相変わらず大きくずれてますが論点は二つです。一つ、八つ国内部へ侵入するに至った我々の知り得ない経路の解明。二つ、セフェクさん、トトさんの人体的構造の解明。敵対心や動機などは今必要ありません」


 開円に意見するのは、『无窟むくつ いこる』。生魂いくたま神社では惟神じんの研究を専門とし、幾つもの新たな解明、開発で実績を残している。学舎では法式学を専門として教えている神職しんしょくである。学者のイメージに漏れず、大きな丸縁まるぶちのメガネを掛け、白地しろじの多い服をまとい、足元を着いてまわるペット型ロボットの背中から伸びるデバイスに、常に何やら打ち込んでいる。


「いこるよぉ、お前はただ単に刺激的な検体が降って湧いたもんだから、てぇだけだろが」


「それは否定しません。が、今必要な論点ではありません」


「かーっ! 相変わらず感情的なものを感じねぇな」


「開円様、人が集まる場では必要な話のみして下さい」


「とっとっと、人それぞれの視点があるからのぉ。目的違いで集まった者では答えはまとまらんて」


「 …… (ねぇ、セフェク。どうなっちゃうのかな? セフェクっ!)」


 イチは微かな声でセフェクに話しかけるが、前を向くばかりで応答はない。


「さて、ワシが決めていい?」


「はっ!」


 即座に、ここに集められた者達が八千矛やちほこに同意を示した。


「まず、セフェク殿には感謝を申し上げる。我々の知り得ない情報というのは、虚実きょじつ問わず大変に貴重な物である。そして、セフェク殿たちの出現までの経緯であるが、その特殊なゲイトの再現性は限りなく低く、かつ八つ国へ現れたのも意図的なものではなく偶発的であると。更には目的は幸いにも国外にあるという。であれば我々が関与する事もなく、セフェク殿たちの自由にされて大いに結構であろう。ただし、このまま外に行かれると城門にてトラブル必至であり、ほぼ評議会までの面倒な手続きが始まる。そこでじゃが、最低限ここ生魂いくたまからの外出許可証を持参されてみては如何じゃろうか、というワシからの提案じゃがどうだろか」


 八千矛やちほこは、先程までの右往左往は止め、電スカに腰をかけては、淡々と状況のみを並べて話していく。


「それいいなっ! 気に入った!」


「え? セフェク?」


今まで一貫して黙していたセフェクが、ここで声を発した


「トッ! 何? 突然に理解頂けた感じ …… なの?」


八千矛は、突然のセフェクの声に驚き、慌てては特異なポージングとなり、キャラを忘れた。


「では …… 」


「それくれ! その浮くやつだ!」


「え?」

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