第32話 修行編 Last Day ⑤

「セフェク様! Mode Thanatosモード タナトスの影響もあり、イチ様は危険な状態です!」


 セフェクは笑みを含む。そして、イチのもとへと歩み寄りながら唱えを発した。


民衆みんしゅうみちび自由じゆう弾丸Bullet!<第壱層Mode First>」


 どこからともなく、セフェクの体に緩やかに装束が纏われる。右手にはが出現した。止まる事なくセフェクは歩み寄っていく。


「今ならか? これが本来、だ。宇宙おかみの意思により、力の分散が行われ失われはしたが、寄せ名を、法式の力で補完し、再び取り戻せる」


「本来の姿 …… 」


「おう、元々は自然も、物も、生物も、人類も、全てに能力は宿っている」


「ははっ …… 全員に、能力は宿っているんだ …… ね。 …… よかった。僕にも …… 僕にも力は …… あったんだ …… うぅ …… うぁ …… うぅ ……  」


 イチは横たわりながら顔を横に涙を流し、痛みも忘れ、ただという事に喜びを得ている。


「この世界では法式を扱える者を、アラウザル能力者と呼んでいるようだが、本来俺らはこの呼び戻した能力のことを、アラウザル再び目覚めた力と呼んでいる」


「 …… よかった、本当に …… 諦めなくて …… 」


「っは! 諦める事は面白くねぇよな」


 セフェクは右手の銃のようなものを構え、そのままイチへ向け放った。


「戻してやれ」


 —— KyuNキュンッ


 放たれた銃弾がイチへ当たると、そこから光輝き、イチの体全体、そして辺りを円球状に覆った。


 —— ChuChuチュチュッ …… Jyuジュッ …… Piピッ ……


 皮膚内側から張り裂かれた体中の裂傷れっしょうは、みるみるふさがっていく。よく見ると流れ出た血液なども、傷口へと戻っているようだ。


 両腕の生々しく筋繊維の露呈ろていされていた傷も、あたりに千切れ、焼け焦げ、がれ落ちた肉片が、腕へと戻りながらも瑞々みずみずしさを保ち始めていく。


「これは …… 治しているんじゃなく …… 戻っているの?」


「ああ、オレのアラウザルは、対象を能力だ」


「ははっ、すごい。痛みもなくなっていく」


 イチは、少しづつ体を起こしていく。


「イチ、お前 …… 」


 トーレはゆっくりと、イチへと歩み寄っていく。


「ごめん、トーレ。教えてもらった通りに出来なかったや」


「お前、体に異変はないか?」


「ん? 大丈夫だよ、セフェクのお陰で傷も塞がったみたい」


「いや、傷ではないんだ。お前が結果的に唱えた冥式瓦解めいしきがかいは禁術になる。犠牲があるんだ」


「ああ、オレの世界でもMode Thanatosモード タナトス、いわゆる冥式瓦解それは同じく禁術だ。その犠牲とやらは、お前の一族にはどう伝わっている?」


 セフェクはトーレに問う。


「一族では犠牲があるとしか伝えられてない」


「そうか、肉体だ」


 セフェクはさらりと言う。


「正確には犠牲ではない。冥式瓦解それは、肉体を宇宙おかみから力を借りるようなものだ。では借りたものはどう返すかだが、それはお前の世界を始世界ティアにすることだ。それで返済完了。担保肉体は返され元に戻る」


「付け加えますと、それは半ば強引に力を奪い取っている感覚に近いです。ですので、預け入れたからといって、宇宙の意思も優しくはありません。セフェク様の例えに合わせるなら、借りた以上は利息として、日を追うごとに侵食箇所はむしばまれていきます」


 トトは、冷静に分かりやすく補足を伝えた。


「そうなんだね …… 何か犠牲を払うことになる事は気づいてたよ …… 」


 イチはそういうと、手に視線を移す。


「そうか、指をか」


 イチの手は右人差し指、第二関節から先が、黒みを帯び鱗状に変質している。


「ここだけが痛みが引かないから …… そうなんだろね」


「それだけで済んだのが不思議なくらいです」


「どこを食われるかは決まっていない。頭や主要臓器でもいかれりゃ終わりだ。覚えておけ」


「うん …… 」


「忘れないでください。預け入れたからにはそこから徐々に侵食されていきます。イチ様が助かる道は、この世界のイチ様が他世界のイチ様に負けない意志の強さを持つ事以外にはなくなりました」


「うん …… わかった。ありがとう」


「さて、どうする? イチ」


「変わらないよ。この力を使ってでもハレヒメを助ける」


「はっはー! そうだな!」



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