第31話 修行編 Last Day ⑤

 イチは想いのまま叫び、二つの法式を完全に重ねた。その瞬間、法式の書術が次々に書き換えられていく。


 —— GaZiZiガヂヂッ! Gaガッ! GaZiZiZiZiガヂヂヂヂッ


 法式は不安定さだけは残し、重なりつつも、今にでも弾け飛んでしまいそうな様相だ。


「おぅ、トーレ。あるだろ? お前の一族の禁術がまだよ」


「 …… あぁ、だが」


「いいんだよ、イチは分かってての覚悟なんだからよ。それにアイツほとんど作っちまったぞ。弾け飛ぶ前に唱えを教えてやれ。後の面倒はオレが見てやるからよ」


「 …… 」


 トーレは返答に少しの間を置いた。


「 …… イチ …… その力を、手に …… 入れたいか?」


 トーレの表情は悲しそうに眉を下げ、体は脱力している。


 —— GaZiガヂッ! GaZiZiZiZiガヂヂヂヂッ


「ぐっ …… う、うん …… ハレヒメを救うために …… 必要だからっ!」


「 …… そうか …… お前は …… 見失うなよ」


 トーレはイチから目線を下へ落とし、少しの間の後、再びイチへと真っ直ぐに視線を向けた。


「 …… 冥式瓦解めいしきがかい。それが唱えだ!」


「う …… ん、ありがとう …… 」


 イチの両の腕は指先からザックリと裂け、血は霧散しながら、鮮血で真っ赤に染まっている。


 —— Suスッ ……


 想像を絶する痛みに襲われている事は容易に想像できるが、それでもこの瞬間、イチは落ち着いていた。ゆっくりと、赤子の寝息のように、優しく息を吐き、そして大きく吸い込んだ。


 —— KyuNキュンっ


「 …… え? 誰?」


 イチがボソリと独り言を発した。


「イチ様! まさか …… コネクトされ …… 」


「…… 堕胎だたい …… Birthdayバースデイ …… それが君の名前なの?」


「っは! 届きやがった!」


「唱えを!」


「う …… うん …… 堕胎Birthdayだたいバースデイ冥式瓦解めいしきがかい>!」


 —— KyuKyuKyuNキュキュキュンッ


 それまでいびつに膨れ上がった法式は、瞬間に小さく手のひらサイズにダウンサイズされ、歪みのない美しい円環法式となった。イチの周りにはどこからともなく方々から布や羽織などの装束しょうぞくまとわり、あたりの空間も歪んで見える。法式は乱れなく安定し、イチの胸の前に落ち着き、そしてプラズマは止んだ。


 次の瞬間。


 —— ChuNチュンッ


 イチの胸前に整っていた法式中心から、光速にも似た早さで何かが発出された。あたりに巻き起こっていた砂埃に穴をあけ、傘上の空気の壁を作っては突き抜け、その何かは真っ直ぐに庭石に向かい、抵抗なくそれを通過し、消えた。


 —— GyaBaNギャバンッ


「きゃっ!」


「くっ!」


 と、同時に耳をつん裂くほどの破裂音が、あたりにとどろく。その何かは音速を超えたのだ。


「はぁ …… はぁ …… ぐっ …… 」


 イチもまた、反動で後方へ飛ばされていた。


「イチ …… 大丈夫か?」


 イチの体は、見るからに危険な状態である。体中からの出血がひどく、特に両の腕の皮膚はめくれ、筋組織が露出している。不思議と手にはどこから現れたのか白い手袋グローブで覆われていたが、少しの間の後に、身に纏っていたものとともに消えた。


 —— ZaSaザサッ


 イチはその場で崩れ、倒れた。


「はっはっはー! 面白ぇものを見せてもらった」

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