第27話 修行編 Last Day ①

 —— KiRaKiRaキラキラ —— ChuNChuNチュンチュン


 空気中を漂う細やかなちりに、日の光が美しく反射する。そのランダムな輝きに合わせるかのように、鳥達のさえずりりがチュンチュンとコーラスする。戸の隙間から差し込む一筋の優しい陽光ようこうが、ゆっくりと角度を変えまぶたに伸びると、意識を覚まさせた。


「 …… 初めての朝 …… だな」


 セフェクは上半身を起こす。


 —— FuaWaaファワァ


「お早う御座います。セフェク様」

 

 トトはすっきりとした面持ちで(顔色が分かるのかと言われると難しいのだが)、フワフワとセフェクの前に浮かび寄ってくる。


「お前が浮いていても見慣れてきたな」


「ふふふ、私も大分コツが掴めてきましたよ」


「イチはどうした?」


「朝早くから外で鍛錬を行っています。鍛錬メニューを伺いましたが内容は充分ですね。よく考えられていました」


「問題は本人か」


「はい、我々の濃縮されたジャム気、この世界での惟神ジンですが、イチ様からは湧き出るものは何も …… という印象です」


「そうか」


 宿所の裏から外に回ると、少し開けた庭のような空間があり、大きな庭石と相向かい、座して集中しているイチがいた。


「 …… 」


 イチは微動だにせず、背後までセフェクが寄っても気づく気配もない。


「イチ、それはしている」


 セフェクは質問したというよりも、イチの様子を見て不思議に思い、問いを投げかけた様子だ。というのも、イチは禅を組んでいるだけにも関わらず、噴き出るほどの汗をかき、地はじんわり滲んでいるほどだった。


「セフェク、おはよう。何って鍛錬だよ」


 イチは目をつむったまま答える。


「そうではない。どうやったら座しているだけでそこまで熱量をあげられんのか聞いている」


「どうって …… 想いを高めて胸の真ん中に圧縮するんだよ。まだ上手く出来ていないけど、必死だから汗もかくよ」


「必死だろうが座ってるだけで汗はかかねぇよ。そもそもそういう鍛錬は、心を静めてやるもんだ。お前のは何か違ぇよ」


「ちょっと待ってて、集中しなきゃいけないんだ」


「待つのはお前だ。お前の目先の目標も理解したつもりだが、間違いなくその鍛錬は必要ねぇ」


 —— ChiPaチパッ


「そうなのっ!?」


 イチは目を開け、セフェクの方へ振り返る。


「お前、その目の前の庭石を砕くイメージを練ってるだろ?」


「そうだよ、承認試験と似た環境なんだ」


「根本的に、そのままでは全くもって無理だ」


「そうなのっ!?」


「その惟神ジンとかいう概念、理屈、構造は熟知しているのか?」


神職しんしょくに教えてはもらったけど、まだピンときてないんだ …… 気持ち的な ……事なのかな?」


「はっ、それで仮に能力が発現なんかしてみろ。コントロールなんて到底できずに暴走するぞ。得たいものはどんなものであれ、まずは構造を熟知することだ。調べ尽くせ」


 セフェクはトトへ目をやる。


「時間が惜しいからな。トト、あの庭石を


「はい」


 トトは返事をすると躊躇なく能力を発現させた。


水面みなも黒鴇くろときうつ現実と虚構Double Image第一層Mode First >!」


 —— BiNビンッ


 トトが能力を発現すると同時に、イチはその力に抵抗する意識も間に合わずに、目前の庭石へ引き寄せられるように一直線に衝突した。


 —— MeKyaメキャッ! ZuGyaズギャッ!!!


 生身の砕ける音と共に、庭石は激しく砕けた。


「ぐはっ! がっ! ぐ …… うぅ …… 」


 イチの体は何本かの骨が折れた。中指骨ちゅうしこつ尺骨しゃっこつあたりが折れ、皮膚から飛び出ている。内臓も痛めたのだろう、額には即座に脂汗がにじみ、口からは血液がしたたり、体の内部を悪戯いたずらに走る痛みに耐え、悶絶もんぜつしている。


「はっはー! 能力を受けるのは初めてか?」


「がはっ! セ …… フェク …… 」


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