第26話 出逢い ⑤

「強くなれるかじゃなく、お前はもう、充分に強いと言ったんだ」


 今度は視線をイチから外さずに、真っ直ぐに答えた。


「もう何百年前か忘れたけどよ、元の世界にいる時に『この私を救えるか』と聞きやがった小娘の次に愚問だ。愚問レベル最上だな」


「 そんな、知らない人の話出されても …… 。僕は何をしてでも、何と引き換えてでも、強くならなくちゃいけないんだ。明日にでもジンを使えるようになって、試験に合格して、妹のハレヒメを救い出さなきゃいけない。それでも …… 」


「それが充分に強いという答えだ!」


 セフェクは食い気味に即答を続ける。


「命をしてでも、成し得なければならない事が、お前にはすでにあるんだろう? それは、道が見えているという事だ。道さえ見えていれば、血反吐ちへど吐こうが、手足千切れようが、泥水すすろうが、仲間、親を失おうが、どんなに心が折れそうな状況下でも、何をすべきかという、正しい決断は出来る。ゆっくりだとしても確実に道を歩める。一歩でも目指すべきものに近づけるという事は、強いという事だ。だから、お前はもう充分に強いんだよ」


「それが答えの理由なの? 二日後にはヤチホコ宮司に力を見せて、試験を受けるに足る許可を得なければいけないんだ! それなのに僕はまだ何も出来ていない! 残されてる時間もわずかなのに、セフェクはそれでも僕が強いと答えられるの?! 合格出来るほどに強いと言うの?!」


「そうだ、お前は強い」


「何で! 何でそんなに自信にあふれて言えるの! 他人事ひとごとだから?! 適当につくろってこの場を終えようと答えてるだけでしょ!」


 イチは吐き捨てるように、珍しくも声を荒げた。


「イチ …… お前はすでに正しい決断が出来ると言っただろう? 心を決して乱すな。道が見えている者は、心だけは平穏を保て。心を乱せば、それはお前自身に刃を向けるぞ」


 セフェクは、声を荒げるイチに対し、優しく、落ち着きを取り戻させるかのように、丁寧に言葉を伝えていく。


 「今この状況下で、命を賭してでも、何に引き換えてでも、成し得たい事があるお前は、次に何て言葉を発するべきか分かっているんだろう?」


 —— GuZuNグズンッ


「 …… うぅ」


 イチはセフェクの目を見つめながらも、両の目から真っ直ぐに涙を流している。


「セフェクぅ …… うぅ ………… 」


 —— ZuZuZu《ズズズ》


 鼻水が続く。


「たす …… けてよぉ …… 」


 —— ZuBaNNNズバンッ!!!


「はっはっはー! おおおう! 任せろっ!!!」


 セフェクは立ち上がり、大きく息を吸い、胸を張り、そう答えた。


「 …… え? …… セ、セフェク様?」


 ウンウン、と頷きを続けていたトトは、分かり易くセフェクを二度見した。


「イチ! その試験とやらに合格させてやる! そして、ハレヒメも救えるようにしてやる!」


「 …… うぅ、セフェク」


「お前が今出来得る最上の正しい決断だ! 道を真っ直ぐに目指すお前の心に感謝しろ!」


「あ …… ありがとう ………… 」


「よしっ! 今日は寝るぞ! 明日から楽しめ!」


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