第24話 出逢い ③

「多世界?」


「はい、イチ様のいるこの世界を仮にA世界とすると、その他にもB世界、C世界と似たような世界が分岐しながら、多重に重なっているという概念です」


「概念自体は分かるかな。こっちではパラレルワールドとか呼ばれてるけど」


「はい、正確にはそれとは多少意味合いは異なりますが、大きい枠組みでは同じとされた方が認識はしやすいかもしれません」


「分かった。分岐はどうやってされるの? 僕が右手をあげるか、左手をあげるかとかで?」


「いえいえ、分岐にはが働きます。イチ様が存在するこの宇宙規模で、大きな意思が働いた時に、分岐します」


「壮大 …… だね。その多世界と君たちがどう結びつくの?」


「まぁ、そう焦るな。ゼロから説明となると長ぇんだわ」


 セフェクは、結論を急ぐイチを優しく制した。


「こちらの世界でも、宇宙の起源は研究されているかと思いますが、元々宇宙は一つの膨大なエネルギーの塊でした。そして、膨大なエネルギーとはいえ、それが有限である事を宇宙も認識していました。ですので、長い年月のなかで、より効率よくエネルギーを保てるように、宇宙は全体のへ進んでいく事にしました。その為に、全てのエネルギーを分散させ、多世界を作り上げ、選択肢を増やしたのです。従って、多世界で比べ、意思の強い世界はそのまま時間軸が進み、意思の弱い世界はその分岐に使用したエネルギーを、意思の強い世界の方へと戻されていきます。私たちは意思の強い世界を始界ティア、意思の弱い世界を終界ティアレスと呼んでいます。終界ティアレス側はエネルギーが始界へ戻されますので、その世界では、崩壊が始まります。そしてまた次の分岐のエネルギーへと補充され、始界ティア側は残る。宇宙はこれを繰り返しているという訳です」


「 …… 」


 イチは押し寄せてくる情報の波を、必死に処理しているようだ。


「えっと、終界ティアレスの方は宇宙ごと崩壊しちゃう …… の? なくなってしまうってこと?」


「はい、重要なのは宇宙全体での意思の絶対量です。ミクロのところでは、一生物レベルでの強い意思が求められるという事です」


「そういう事だ。例えば今ここにいるイチが、突然のやまいや怪我などで体が弱っていき、衰弱し、寿命以外の理由で不自然に死んだとする。それはここにいるイチが、終界ティアレス側のイチであり、始界ティア側の、より意思の強いイチへエネルギーが吸い取られていき不自然に死ぬということだ。より正確に言うなら、力は吸い取られていく訳ではなく、という理解の方が正しいがな」


「う …… うん。 …… 例えば終界ティアレス側だとしても、個人レベルでは始界ティア側より意思が強い人がいた場合、エネルギーは終界ティアレス側に留まるという事も考えられる?」


「そうだな、大いにあり得る事だ。何も始界ティアからだけ分岐するわけではないからな。終界ティアレス側も、更にそこから分岐もされる。そこで何らかの意思が働き、どの世界よりも意思が強くなる事があれば、始界ティアとして選択され、他の世界が逆に崩壊をはじめ、エネルギーはもと終界ティアレス側へ戻る。要約すると、多世界は複雑に選択を増やしながら、宇宙がより延命する為に、意思の強い世界を選んでいるって訳だ」


「なんとなく分かってきたよ。宇宙全体とはいえ個々の集合体だものね …… 自分では始界ティア側か終界ティアレス側か、どちらにいるかは分からないの?」


「そうだな、一つ分かりやすく言うなら、まず間違いなく終界ティアレス側にいると思っておいて間違いない。現実はそんなに甘くねぇって事よ。分かりやすい特徴もある。終界崩壊の最終段階を、終焉しゅうえんといい、光も生命も感じない、終わりを待つだけの段階となる。その頃には自分がどちらにいるのかは分かるだろうな」


「終焉 …… 」


「周りを見渡し、世界が崩壊し始めていないか、良く観察することだな」


「急には理解が追いつかないけど、伝えたいことは分かったよ」


「そうか。そしてオレ達は、その終焉からこの世界に辿り着いた、というのも付け加えておく」


「えぇぇ???!!!」


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