第23話 出逢い ②

 ここは生魂いくたま神社境内けいだいの離れに、イチが八千矛やちほこ宮司より特別な許可を得て借りている宿所しゅくしょである。宿所といってもイチしかいない小さな建物で、最低限が備わった倉庫代わりのような一部屋である。


「事情 …… 話してくれるかい?」


 一枚の布団の上にを寝かせ、イチは横に正座で座り込み、決してあおる訳ではなく、許可を得ながら話すように、優しく様子を伺う。


「 …… あぁ」


 は上半身を起こし、辺りを見渡し終えると、口を開いた。


「まずは …… これは一つの感謝だな。有難う」


 イチは驚いた様子だった。先ほどまで悪態極まりのない、礼儀もわきまえもない子供だと思っていた者が、開口一番に感謝を述べたのだ。


「セフェクだ。名はセフェクと言う」


「…… あ、僕は百万 一与。イチとよく呼ばれるよ」


「そうか、イチ。悪いが2つ尋ねる。まずはそれに答えてくれるか?」


「わかった。じゃぁ、君が全て話し終わった時に、僕は一つ訪ねるから、それに答えて。」


「いいだろう。一つ目だ。オレはお前達と出会う直前まで、手に握っていたがあった。覚えはねぇか?」


「果実 …… ? 果実かは分からなかったけど君が気を失った時、手元からコロンとツルツルの玉のようなものが落ちたんだ。大切なものだと思ったから枕元に置いておいたよ。ほら、そこに」


 イチは、セフェクの枕元を指差し、セフェクも振り返り確認する。


「そうか …… 」


 セフェクの口元が一瞬緩んだように見えた。


「2つ目だ。これから恐らくイチの常識を大きく超えた話をする事になる。が、今現時点で、これからの話をと言えるか?」


 話す前に信じろというのは中々に奇妙な話だが、セフェクはイチをジッと見つめ、その目には真実を語る事以外を疑わせない輝きがあった。


「信じるよ」


 イチの返答は早かった。


「うまく言えないけど、何か僕に害を為す気なら、こんな回りくどいやり方は選ばない。何よりも僕の常識は数日前に根本から崩れたんだ。全くのゼロになったんだよ。それからはとにかく自分で見たものだけを一つづつ信じていき、一つづつ確かめていこうと決めたんだ」


「っは! 良い返答だな」


 セフェクはイチの方に半身を向けたままうなずき、少し息を吸うと声を発した。


「トトっ!」


「はいぃぃっ!!!」


 枕元に置かれていた無花果の実ツルツルの丸い玉は、セフェクの声と同時にクルンと向きを変えると、目鼻口が現れ、顔を形作った。


 —— DoDoDoTaBaTaドドドタバタッ


「なっ! 何それっ!」


 イチは今までに見たこともない生き物が、突如として目前に現れ、瞬時に、突然の危機から身をかわす猫のように、4〜5mは俊敏に後ずさりをした。


「な …… な …… なん …… なの?」


 イチは少しづつ様子を見ながら4〜5mほどセフェクの元へと戻っていく。


「はい、自己紹介が遅れました。私はトトと申します。セフェク様のお世話役で御座います。同時に、指示があるまでもくしていた事を、お詫び申し上げます」


「ひゃ …… ひゃくまん …… い …… ちよ …… で、です …… 」


 イチは無理矢理にでも、冷静さを装おうとしていた。


「セフェク様共々、飯無し宿無し金無しの身ですが、宜しくお願い申し上げます」


 挨拶をしながらも、トトの体(実)がフワフワと浮き始める。


「はっはー! 現実は受け入れられたか?」


「い …… やぁ …… (浮いた?)」


「オレもな、まだのトトには慣れてねぇんだわ。体(実)浮いてるぞ、お前」


 セフェクはトトの方を見て、笑いをこらえている様子だ。


「はい、この体(実)になってから、不思議な感覚ですが、周りの自然の濃縮されたジャム気に、自分の濃縮されたジャム気を干渉させる事が出来るようになったんですよ」


「はっはー! なんだか楽しんでるんじゃねぇか? その体(実)をよぉ」


「えっと、二人で専門用語織り交ぜて盛り上がらないで …… こっちは突然の事が多すぎて、まだ頭が追い付いていないのだから …… 」


「おお、わりぃわりぃ。本題だな。まずは多世界たせかいの認識からだ。トト、話してやれ」


「かしこまりました」

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