第18話 セフェク ⑦
「日常と何が異なったのか分かるだろう?」
ベゼブは再度セフェクへと問う。
「っは!
「そう、この樹が機能しなくなってから何百年も、僕たちはそれはそれは待ちわびててさぁ。気でも違えてしまうかと思ったほどだよ」
「すでに気は違っているように思えるけどね …… 」
トトは辺りを警戒しながらも、突然の出来事に臆する事なく冷静さを装う。
「 …… それ、貰うよ?」
ベゼブは眼光鋭く、セフェクの方へとゆっくりと歩み始める。
「そんなに大事か? これがよ」
「ああ、君の理解の
「それは悪かったな、先に謝るわ」
ベゼブは歩みをピタリと止めた。
「ギャハ、何だよぉ、セフェクぅ、お前意外と常識人じゃねぇかよぉ」
ディーヴが相変わらずの高い軽い声で、無邪気に話しかける。
「待て …… なぜ先になのだ …… ? まさか!」
——
その弾けた飛沫から、空間は瞬間的に、幻想的な優しさを
「ワリぃ、切断された右腕がまだ上手く動かせなくてよぉ、力加減間違えて潰しちまったよ」
「貴様ぁぁぁ! お前の理解の範疇を超えるものだと伝えただろうがぁぁぁ!! 何をしたか分かっているのかぁぁぁ!!!」
……………………
…………
……
その天井は高く、人工的というよりは
ここは国王の玉座の間である。
かつての
「かっ …… ひゅ …… 」
すでに声にはならない、気道から
アテン王は、ベゼブ配下である
「爺ぃ!!!」
セフェクの周りには大量の異形たちが肉片をボコボコと増やしながら、かわるがわる押し寄せており、思うように身動きが取れないでいる。
セフェクはその異形たちの一部を戻すことで、ベゼブの支配権を止めているが、数が多すぎて間に合っていない。
「クソッ! キリがねぇ!」
「クックック。君、
崩れ落ちた玉座近くにいるベゼブの体には、至る所に長いチューブが繋がれている。その先を
「テメぇ …… 」
「サペティス、それの頭を食え」
「は …… はい …… ベゼブ様」
アテン王を掬い上げたサペティスは、腰から下には足はなく、冷たい鱗に覆われたヘビのような体をしている。また腰から上はそれまでとはガラリと代わり、装束も少なく女性としての柔らかさが見て取れる。これまでのセフェク達との戦いでの負傷から、かなりの出血が目立ち、息は荒い。
「はぁ …… はぁ …… 」
「やめろぉぉお!!!」
セフェクは力を振り絞り、最大法式にてまさに命をかけた攻撃へと転じる瞬間に、スッと脱力に見舞われた。
——
サペティスの口が、顔の許容範囲を超え、
「オヤジィィぃぃぃ!!!」
「クックック、ハーッハッハー! その顔だよ、貴様のその顔が、僕の
「許さねぇ! 許さねぇぞ、ベゼブがぁぁァ!!!」
「ふぅ …… 相変わらず君は分かってないねぇ。もう何をしても私には届かないのだよ。戻れサペティス」
「 …… はい、ベゼブ様」
——
アテン王の頭蓋を全て食したサペティスは、残りはボトリと地へ放り捨て、ズルズルとベゼブの元へと向かい、ベゼブの背中のマントの中へと潜り込むと、不思議と尻尾の先まで全ての姿が消えた。
「手に入れた …… ついに …… 。アテン、お前は一人でこの全てを見ていたのか」
「ベゼブ! 必ずブチのめしてやるからなぁ!!!」
「しつこいねぇ、君も …… 言っただろう? もう僕にはこの世界の何もかもが届かないのだよ」
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