第17話 セフェク ⑥

 —— BuByaブビャ BuThiBuChaブチブチャ


 積み上がった異形いぎょう達は、無作為むさくいに膨れ、次々にボコボコと弾け飛んでいく。目玉、肉片、胃内容液、体汁たいじゅう脳漿のうしょう、内臓、血液など、体液ごと全てを全方位にブチけ、何十体に及ぶ大量の体液飛沫しぶきの中から巨大な頭蓋ずがいを模した扉が現れた。


「下品で、見た事もない、悪趣味なゲートですね …… 」


 —— ZaSuザスッ KoTuコツッ


 体液まみれの巨大な頭蓋の口が、不気味に静かに開くと、漆黒の闇の中から、その者は歩みながら現れた。


 —— クックック


 足元から少しづつ、その容姿が見えてくる。


「久々に …… 笑わせてもらったよ。これが笑みってやつだろ? 久しく忘れていたものだ」


 全身を黒い装束で覆われ、装飾類にはむくろが目立つ。フードを深くかぶってはいるが、銀色のあでやかな長い髪だけは確認する事が出来た。視界からはそれだけの情報しか得られないが、その者からは、明らかにセフェク達とは相容あいいれない未来を予測するに充分な情報であった。


「そのゲート、外法げほうだな? 何しに現れた? 都合によっちゃ即断するぜ?」


 セフェクは、まさにこれから無花果いちじくを無条件に楽しみ、恍惚こうこつ感にでも浸ろうかという時を突如邪魔され、怒りあらわに直ぐにでも襲いかかる気持ちであった。


「君は馬鹿なのか? 何かが日常とちがうから、異変というものは起きるのだろう?」


 その刹那、セフェクはその者の喉元に爪を立てた。


 —— ZaKuNザクンッ


 —— BuByuブビュゥッ! Byuビュッ! Byuuビュゥッ


「ほぅ …… 」


「えっ!」


 引きで見ていたトトですら何が起きたのかは認識できず、思わず驚きの声が漏れた。


 正確には、その者の喉元はセフェクに掻き切られたように見えたはずが、不思議と先ほどまで積み重なり、醜く破裂していた異形の一つと入れ替わっていた。


「おもしれぇな …… お前」


 —— Zuヅッ


 瞬間、セフェクは右腕に違和感を覚えた。いや、右腕がに違和感を覚えたというのが正しい。


 —— Puプッ! Vyuヴュッ! Vuヴッ! ZyuBaaaジュバァァッ


 右肩の切断面から大量の血液が吹き出る。セフェクの右腕は繋がる先を失い、ボトンと地に転がっている。


「おいおいおぃ〜、お前セフェクだろぉ〜? 噂以上に生意気じゃねぇかよぉ〜」


 セフェクたちの耳に別の声が聞こえてくる。


「なっ! いつの間に …… 」


 トトは声のする方に目を向けると、いつの間にか辺りを囲まれている事に気づいた。


「ベゼブさぁ〜ん、大丈夫っすかぁ〜?」


 見た目からして若く、男とも女とも見て取れる者が、軽い抜けた声でセフェクと対面している者に話しかけた。


「ああ、気にするなディーヴ。そしてよく見てみろ。不思議だな」


「ん? あぁ! あれぇ? 右腕があるぅ?」


 突如切断されたセフェクの右腕は、すでに元通りに


「はっはー! 暫くは楽しめそうじゃねぇか!」


 セフェクは気持ちよく口角を上げた。

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