第19話 セフェク ⑧

 ベゼブは、もはやセフェク達の方は見ていない。顔は天を仰ぎ、両腕を大きく広げ、天井の崩れた隙間から注ぐ優しい穏やかな光を、全身で浴びるように受け入れていた。


「なぜ終界ティアレスに光が …… 」


 息も絶え絶えに、地に顔をつけ横たわっていたトトが、誰に伝えるでもない小さな声を漏らした。


 —— クックック


「セフェクよ、この世界での最後としては、我々は悪くないたわむれだったと思わないか?」


 ベゼブは、ようやくセフェクに顔を向けた。


「 …… これは! 日の光ではなく法式 …… 」


 トトは残された力を振り絞り、ゴロンと仰向けになり気付いた。空へと繋がる天井の隙間から、巨大な法式を垣間見たのだ。外から差し込まれているものだと思っていた光は、この城を覆うほどの、誰しもが想像し得ない、計り知れないほどの巨大な法式から溢れる光であった。


Mode Eclipseモード エクリプス The Entanglementザ エンタングルメント …… 」


 ベゼブは、これまでの争いが無かったかのような、子供をさとすすような、優しい小さな声で法式を唱えた。


「ふふふ …… 」


 瞬間、何かが刹那的に爆発したかのような、耳をつんざくような爆音と共に、暴力的な風圧がその場の全てに襲いかかった。


 —— ZuGyaGyaGyaズギャギャギャッ!!


 そこに生き残っていた国兵士や異形いぎょうたちは、その力にあらがすべもなく、そこに留まることを許されなず、一斉に吹き飛ばされていく。

 

 刹那の出来事ではあるが、巨大な法式を中心として広がった爆風は、次にその法式を中心に吸い込まれるように、広がった爆風と等しい風圧で流れ込んでくる。この激しい爆風の連動に、殆どのものは、元の形を保つ事は叶わなかった。


 —— GuShaaグシャァ!!GyaShaaギャシャァァ!!


 玉座の間は、元の姿を思い出すことを禁じるかのように崩れ去り、空が広く開いた。必然的に天を覆う巨大な法式もあらわになった。


「 …… あぁ、なんて美しい光なんだ」


 ベゼブは喜びに満ちた表情を浮かべ、恍惚こうこつに浸っている。そして、天空のその巨大な法式の中心であるいざなわれるように、体は重力を忘れ、フワリと直線的に優しく浮き上がっていく。


「この世界は滅びる! だが、僕は生きるぞ、セフェク ! 生きる! 生きるのだ! 終わりすら僕の前にはでしかなかった! 僕はそれを乗り越える事だけを考え、絶望にも思える果てしない時をかけ準備し、そして勇敢さを失わずに挑戦し、勝ったのだ! 僕は運命を自分で切り開いたぞ!」


「待ちやがれぇぇえ!!!」


 もはやセフェクの声が届くような状況ではない。


「トト! くたばる前にやる事やり切れ!」


「その言葉 …… 一周回って元気が出ますよ …… あなたと過ごした時間が …… 長くて …… よかった …… じゃなければ、その言葉トドメでしたね。」


 トトの声に力はないが、手元では親指を立てたサインをセフェクに送っている。


水面みなも黒鴇くろときうつ現実と虚構Double Image第参層Mode Thanatos >!」


 渾身の力で発せられた法式は、風を巻き上げ、光を放つ。


「ベゼブとセフェク様を …… 繋げ」


 トトのその声と同時に、セフェクは勢いよくベゼブの元へと引き寄せられていく。


「やるしかねぇ! お前だけは必ずオレが!」


 ベゼブとセフェクは巨大な法式の中心へと飲み込まれ、漆黒の闇の中へ消えていった。

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