第15話 セフェク ④

民衆みんしゅうみちび自由じゆう弾丸Bullet!<第壱層Mode First>」


 ———— Bunnnヴゥン


 セフェクのとなえと同時に、辺りの空気がうねりを上げ、激しい風圧に襲われた。空中に留めた右手の周りには、輝きを帯びた法式が円環えんかん状に浮かび上がり、体にはどこからともなくフワリと装束しょうぞくまとわる。


「さて、もういっちょう!」


 セフェクは更に右手で法式を描き続ける。


第弍層Mode Second!」


 セフェクの周りに描かれた法式に、更にもう一層の法式が加わる。風圧は激しさをまし、プラズマのような電撃が、方々を悪戯いたずらに駆け巡っている。再び体に纏わられる装束は面積を増やし、華やかさを加える。


「法式が …… 相変わらずデタラメですねぇ。よくこれでそのエゲつない質量になるなぁ」


 セフェクの二回目の掛け声と同時に、トトの周りにも同じように法式が出現し、それを眺めては溜息混じりに呟いた。


 まばゆい輝き、巻き起こる激しい風と同時に、駆け巡るプラズマなど光が集まり、どこからともなくセフェクの右手にが出現した。


「さぁて …… 」


 右手のを確認すると、セフェクは左手で、アフタヌーンティに添える砂糖を、躊躇ちゅうちょなくすくうように、自分の左眼をえぐり、すくい取った。


 BuChuLuブチュル …… GuChuグチュ …… BuJyuLuブジュル …… BuChiBuChiブチブチ ……


「 そこまでするもんですかねぇ…… セフェク様のには毎度感服ですよ」


「はっはー! 何百年前か正確に覚えてねぇからなぁ、時間かかるぞ!」


 セフェクは自らのグロテスクな行為にて取り出した左眼を、地面へ放り投げた。


「よし、トト、とオレを繋げ」


「はいはい、仰せのままに」


 トトはセフェクが何をする気かは理解していたようで、考える間も無く、となえを発した。


水面みなも黒鴇くろときうつ現実と虚構Double Image第壱層Mode First >!」


 トトもまた唱えを発すると、あたりを強い風圧が暴れ狂い、トトの美しい黒の羽を巻き上げながら、周りにセフェクとは色の違う法式が浮かび上がった。


「 …… 繋げ」


 トトは静かに口を開いた。


 —— PiChuNピチュンッ


「お、よぉーし、よしよし! 繋がったぁ!」


 セフェクは右手に持つそので、その放り投げた左眼に狙いを定め、撃ち抜いた。


 —— BaChuNバチュンッ


 不思議なことに撃ち抜かれたはずの左眼は、特に外見上の変化は起きていない。ただ、その左眼を中心に新たな法式が描かれた。よく見ると描かれている数字の部分がカタカタと別の数字へと変わり続けている。


 —— KaTaKaTaKaChiカタカタカチッ …… Hyunヒュンッ!


 左眼の周りでカタカタと動いていた法式がカチッと音を立てると、左眼は少し動いてその場から消えた。


「おお、キタキタキター! ちゃんとあの丘の上で転がってらぁ! 向こうも生気せいきのなさ、景色はここと変わらねぇな」


「やっぱり、同様に辺り一面の生命エネルギーは吸い尽くされておりますかねぇ」


 どうやら先ほどの左眼は、という場所に移動し、トトの能力でセフェクとの視神経が繋がれたのか、左眼を通したビジョンが見えているようである。


「あぁ、これはダメだな。全面死んでるわ」


「諦めます?」


「早ぇよ! まだ面白くなってねぇだろ! まずは行くんだよ!」


「行くんですね …… 」


「楽しみてぇなら、楽しめるまで進むんだよ。開けるぞ!」


「分かりましたぁ(棒読み)」


第弍層Mode Second アンスバッハTHE GATEの扉!」


 セフェクが新たに法式を描きながら再び唱える。


 —— BaChiNバチン


 乾いた音と共に、セフェク達の目の前に漆黒に包まれた闇の空間が現れた。


「おぉ、難なく実験成功だな! 入れ入れ!」


「セオリー完全無視ですよ …… 」

 

 その真っ暗な漆黒の闇にセフェクとトトは、明るい笑い声を消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る