第14話 セフェク ③

 小鳥のさえずりかのように、心安らかな草木のかなでに乗り、爽やかで軽さのある香りがこの世の幸せを感じさせてくれる。日は優しく透かし、潤いは確認せずとも不安を覚えない。


「(こんな面白しれぇトコ、あの強欲爺ぃ隠していやがった …… )」


 セフェクはこっそりと付いてきて、初めて見る光景に目を奪われた。


「どうだ、終始問題はないか?」


 二人の男が自然豊かなこの場所で、巨木を見上げながら話している。


 一人は身につけている装飾類からも伺えるが、名誉ある勲章のようなものが連なり、明らかに一国を収めるに足る人物としての認識が容易な程、ひときわ特別なオーラを放っていた。


 この人物こそが、この世界の王、アテン王である。


「クックック、問題? 一番の問題ははてさて。クックック」


 もう一人の男は、黒のローブを身に纏い、フード越しで表情は見て取れない。この場に似つかわしくない異様な雰囲気である事は確かだ。


「見ねぇ野郎だな」


 セフェクは全てが初めての景色に興味を奪われながらも、その男には少なからずの違和感を覚えた。




 ……………………

 …………

 ……




「見る影もねぇな …… 」


 扉を抜けたその先は、抜ける前となんら変わりのない、生気せいきの抜けた空気が漂っていた。

 

 そこにかつて生物が存在していたのだろうと想起そうきさせるものは何もなく、地はただ足場としての役目しかない。触れるもの全てがもろく、それらには光がない。


 セフェクは幼い頃にこっそりとアテン王についていき、ここに立ち入った時の情景とのギャップに、直前までに抱えていた高揚感こうようかんを失い、落ち込み、ため息交じりの声が漏れた。


「トト、これはダメじゃねぇか?」


「私は初めて来ましたが、それでも、そう思わせるに充分の景色ですねぇ …… 」


「クソッ! 期待させやがってよぉ」


「私は無花果いちじくの話をしただけですよ! 状況に関しては関知しておりませんので」


「うるせぇよ、オレに話すってことはオレが楽しめるって事だろが。状況なんてのはどうでもいいんだよ」


「相変わらずの解釈なことですね!」


「このままじゃ終われねぇ! 楽しめるもの探すしかねぇ! 見覚えあるのはあの丘だな」


「丘ですか? あれはどう見ても丘ではなく絶壁、角度90度ですよ! そして途方も無い距離ですが …… 人型であれが見えるんですか? 本当にムチャクチャな体してますね …… さすがにあそこまでは時間取られますよ?」


「はっはー! 昔、目玉を置いたんだよ」


「 …… 幼い頃から変わりませんねぇ」


「他の奴が変わりすぎなんだよ。さて、どうだかなっと …… ちぃっと昔だからなぁ、重ねておくか。トトのを借りるぞ」


「私に拒否権あるんですか? 勝手に使って下さい」


 セフェクが少し笑みをこぼしながら、スッと右手を空にとどめる。辺りの空気がピンと張り詰めた。

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