第8話

和やかに食事が進む。


コウスケがふざけ、奥さんがコウスケを小突く。ヒナタが大皿から料理をとりわけオレの皿にのせる。


しばらく、楽しい時間だけが過ぎていく。

あらかた、テーブルの上の皿の中が空っぽになる頃、俺は

「ヒナタ、もう1つだけ聞いて欲しい」

ときりだした。言わなくてもいいかもしれない。でも、もう全部知って欲しい。そんな気持ち、だった。

「なに?」

「えっと、ね。オレ、家がない。」

「気づいてたよ。ネカフェにいるでしょ?」

バレてた?

「あ、違うの。ってなんだろ」


ヒナタはクスクス笑う。


「この前ね。友達がサボってそこにいたらしいんだ。そしたらナツキにあったらしくてね。すんごい寝起きの顔してたって」

「はあ?」

オレの一生分の緊張感を返して!もう。

一大決心だったんだぞ、クソ。


「あとね、学校行ったことない」

「……うん」

「学校ってのに、行ってみたい。ヒナタと一緒に勉強っていうのをしてみたい」

「……うん。やろうよ。」

「ていうか、オレさ。自分の本当の歳がわからないよ」

そっち、か〜い!とみんなからツッコミが入る。のち、オレも含めて大爆笑。


「いいよ。復習もかねて小1からスパルタで教えてあげる」

ヒナタ、ウインク。かわいいけどな。

「スパルタは勘弁。でも勉強は教えて」

コウスケも奥さんも、できる範囲でサポートすると言ってくれた。


「あのー、提案なんですがあ」

奥さんが間延びした声で割り込んできた。

「ナツキくん、ここに越してきたら?

ほら、離れがまだ誰も借りてないでしょ」

コウスケの団地の片隅に集会所のような建物が1つ。前に見たときはたしか6畳が1つ、風呂と台所だったっけ?


「ああ、あそこか。もうずいぶん空き家だな。確か家賃はいらないらしいから……」

条件良さげな割に何故誰も住まない?

まさか、事故物件?

「事故物件じゃないんだがな。割と騒音が凄いのと日当たりが悪い。電車の音が凄いと三拍子。あ、電車のは振動だな。うん。

どうだ?」


雨風なしに寝るだけありがたいオレはお願いした。


黙って街を出ようかと思っていたのに。

気づいたら、オレは……。



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