第7話

「見て欲しい」

俺は静かに服を脱ぎ、後ろを向く。


ヒナタが息を飲む。それもそのはずだ。

オレの背中には左肩から右腰にかけて大きく斬られた跡がある。左腕には火傷の跡。

いくつもの小さな傷が身体中にある。


「親父さ」

服を着ながらいう。

「オレの家はめちゃくちゃだった。酔った親父が暴れまわりマトモなものは何もなかった」


ヒナタの頬を涙が伝う。コウスケの奥さんも泣いていた。


「あるときいつものようにお袋を蹴っていた親父が台所へ行ったんだ。戻ってきたときには手には包丁が。気づいたらオレは病院にいた。お袋がどうなったかはわからない。親父も。怪我が治っても家には帰れず施設さ。誰に聞いても一切教えてくれない。だからオレは自分で探すことにした」


お茶を飲んで一呼吸入れる。


「施設を抜け出してあちこち探し回ったよ。でも見つからない。何回目の冬を越したかはわからない。もう自分が住んていた街がどこかも思いだせないんだ」


グッと拳を握りしめる。


「この町について、スーパーの前で力尽きてしまった。そのときにコウスケに拾われた」

「俺の店だったから拾った。それから1ヶ月後、うちの店でバイトに入ってもらうことにした。それから3月ほどしてヒナタがきた」

いきなりコウスケが割り込んできた。


「少し休憩してご飯にしましょ。お腹すいてるでしょ。ジュースもあるし。続きはその後で。ね」

食べて、食べて、と奥さん。

重苦しい空気を払うかのようにおどけるコウスケ。ヒナタははにかむように笑いオレの手を握りしめた。



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