第7話

 曇った空は自分の心持ちを映しているよう。波瑠見千代はとぼとぼと学校への道のりを歩いていく、隣には母親の優も一緒だ。学校までの道は上り坂のみ、いつもは気にも留めない通学路は二人には遠く、重く感じられている。千代は1週間ぶりに学校に行く、あのことがあった翌日に担任の先生が自宅を訪問し、本人の気持ちを整理するために登校日を今日にすることになった。


 この坂を上ると小学校の校門が見えてくる。千代は優のことを誇りに思っている、もちろん看護師の仕事のことをすべて理解しているわけではないが、最近のニュースで医療従事者への差別や偏見がニュースで取り沙汰されるようになってからより一層その思いは強くなっていった。なにより、いつも笑顔で過ごしている優のことが大好きだ。だからといって、あんなことを言ったクラスメイトを許せない気持ちが残っているわけではない、自分を敬遠した友達に対する怒りもない。それなのに、千代の足取りは坂を上るたびにどんどん重くなっていくのだ。


 気持ちというのは時に自分でもわからない部分がある。大人でもそういうときがあるから小学生の千代であれば尚更だ。目に見えない不安、纏わりついてくる体の重み、胃袋をキュッと締め付けられるような圧迫感。校門が見えてきた。とうとう千代の足はそこで止まってしまった。優も一緒に立ち止まった。




「千代、ここまで来ただけも頑張ったんだから、今日はもうおうちに帰ろうか。」





 そう言いかけたとき、後ろからバタバタと足音が聞こえた。





「千代ちゃん、おはよぉぉぉぉぉぉ!」


「あたしね、千代ちゃんに会えなくて寂しかったよぉぉぉ!あとね、それでね、うんとね、ずっとね、千代ちゃんにごめんねしたかったの」






 千代の友達の玉ちゃんだった。わんわんと泣きながらしゃべっているので、時折、優は玉ちゃんの涙と鼻水をぬぐった。玉ちゃんは少しずつ落ち着いてきたようだ。



「一緒に学校行こう、みんな待ってるよ」


「…うん」


 千代はもう大丈夫。優は心からそう思った、千代は優に手を振ると玉ちゃんと校門まで駆けて行った。その足取りはとても軽かった。

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