第5話

「おはようございます、〇月×日おはようテレビの始まりです。」


 テレビから明るい声が聞こえる。朝の情報番組ではアナウンサーが元気に挨拶をしている。最近はアナウンサーがアイドルのように人気が出ることもあり、SNSでファンをたくさん獲得している人もいる。番組のお天気お姉さんのカヨちゃんもそのうちの一人だ。いつもお天気の情報に加えて、おはようエールというこれから一日が始まる人を応援するコーナーが人気で、カヨちゃんのエールが365回楽しめる日めくりカレンダーもテレビ局が作成しているくらいだ。


「今日の東京は晴れることでしょう、連日の晴天ですが乾燥しているので保湿には気をつけてくださいね。」

「それでは、今日のおはようエール。」

「今年度、辛い思いをした方、いまも辛い思いをしている方、たくさんいると思います。だけど安心してください。春は必ず来る、春のことみんな待ってるよ。」


 彼女の笑顔は全国のお茶の間に届いているだろうか。テレビというのは観ている側と観られている側がある。観ている側は様々な心情を持っている、仕事に出かける人、仕事を終えて帰ってくる人、学校に行く人、行けない人。彼女はおはよう。がどれだけの人に届いているのか不安に思うことがある。自分のおはよう。が本当にこれでいいのか、気持ちを不愉快にさせていることはないか考えることがある。スタッフに相談すると、そんなこと考えていたらキリがない、と言われてしまうが自分なりにたくさんの人の心におはよう。を届けたい。そんな思いから始まったのが”おはようエール”だったのだ。



「はいオッケーでーす」

「お疲れさまでした、今日もありがとうございました。」

「カヨちゃん今日も一言エールよかったよ、でも今日の一言なんだか不思議な言葉だったね。」

「実は局にファンレターが来てて、しかも若い子から。いまどき珍しいと思ったから、読んでみたら結構いいこと書いてあったんです。今日はそこからヒントをもらったんです。」

「へぇそういうこともあるんだね~」



 『カヨちゃんへ』そう書かれていた茶色の封筒には古風な便せんが入っており、筆ペンで気持ちがしたためられていた。書いてある内容は女子高生らしい可愛らしい内容なのだが、なぜだかそのファンレターのことが気になっていた。このファンレターからは特に、カメラの向こうにいる人の姿がありありと浮かんできたのだ。




「…カヨちゃん読んでくれた…!!!」


 持っていた箸を落として我に帰った。信じられない気持ちだった。



「ハルが来る?冗談じゃないわよ…」


 春子がため息をついている。



「ハルのこと待ってる…」


 千代は優しく背中を押されたような気がした。



「ハルのこと待ってる…か」


 晴は背筋を伸ばされた思いだ。





 ピンポーン。大川家のチャイムが鳴った、門には寝ぐせ頭の長身の男が立っている。身長は180cm近くあるだろうか、顔は端正で爽やか、体つきは消防士のようだ。


「はい大川です。」

「ご無沙汰してます、丸山敏治です」

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