第2話 大川晴

丸山春子、旧姓大川は俺の姉ちゃんの名前だ。


 うちはいまどき珍しい5人姉弟で姉ちゃんは長女、俺は三男で末っ子。年はかなり離れていて今は子供が二人いる、歳が離れているからか姉ちゃんにとっては俺は弟というより子供みたいなもので、未だに「晴ちゃんのオシメを替えたのはどこの誰かな〜」なんて引き合いに出されるから頭が上がらない。そんな環境で育ってきたせいか、女性というものに同年代の男子ほど憧れは持っていない。むしろ、女性らしいネチネチとしたジメジメとした感情的な感じは好きじゃないのだ。俺が気になっているのは同じクラスの榛名恵だ、挨拶をしたり話しかけても愛想笑いが全然なく、さっぱりしていて同性に慕われている。非常にタイプなのだがさっぱりし過ぎていて、恋愛的な手応えは一切感じられない。これが青春の洗礼というヤツなのだろうか。そんな姉ちゃんは今、実家に帰省している。


「あんたさ、好きな女の子とかいないの?」

「いねぇよ、いたとしても教えねぇし」

「ふーん、どんな子なの?」

「…さっぱりした感じの子だよ」


こういう時の姉ちゃんの追及は厳しい、筋トレに集中するためにもさっさと白状した方が身のためだ。


「そうなんだ〜まっ上手くいくといいね」

「姉ちゃんこそ最近どうなの、敏くん元気?姉ちゃんいつも敏くんに厳しいじゃん、そんなことしてたら逃げられるんじゃない。」


 一瞬、うちの空気が凍りついた。世の中には知らなくていいことがあるというが、知らないということは非常に怖いことである。俺はなぜ姉ちゃんが帰省したのか未だに知らなかったのだ。この後、姉ちゃんの怒りと悲しみは頂点に達し俺は筋トレどころか家にいることさえままならなかった…。

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