第40話 ワイなりの解釈(汗)
あらかじめ用意されていたパネルを示しながら、コンパニオンが始めた。
「これからワインの醸造過程を見ていただくわけですが、その前に、ちょっと予習しておきましょうね。まず、当たり前ですが、ぶどうを採り入れなければなりません。よく熟した物を使います。つみ取ったぶどうはその品質によって選別した上で、房ごと破砕機という機械に通して潰します。こうすることで、あとでジュース――果汁のことですね――にしやすくするため、いらない茎を取り、皮を搾るのです。これを徐梗破砕と言います。
次に、圧搾機にかけてジュースを搾ります。これには二通りの工程があるんですよ。一つは、潰したぶどうから自然に流れるジュースを集めるやり方。そうしてできるジュースをフリーランと言います。もう一つは、圧力をかけてジュースを搾り出すやり方です。こちらの方のジュースをプレスランと呼びます。
こうしてできたジュースに、ワイン酵母を加えて発酵させるのですが――ワインには大きく分けて、赤、白、ロゼの三つがあることはご存知ですか?」
「知ってるよ!」
コンパニオンの問いかけに、一成が元気よく答えた。知ったかぶりをしているのではなく、単に受け狙いらしい。恐らく一成にとって、ワインができる過程は、おおよそ知っている話ばかりなのであろう。
「若いのに、よく知っていますねー」
どことなく修学旅行のバスガイドのような口調になって、コンパニオンは続けた。その「若いのに」という言い方がおかしくて、みんな笑ってしまう。
「この三つ、作り方にも違いがあります。白は皮の色が薄い、白っぽいぶどうから取れたジュースそのものを発酵させて作ります。赤は色の濃いぶどうから取れたジュースを、その種や皮等と一緒に発酵させます。それらに比べて、白と赤の中間とも言えるロゼには色々な方法があります。赤と白を混ぜる、白に着色するといった比較的大雑把な方法から、赤を作る途中で早めに皮や種を取り出す、色の薄いぶどうと濃いぶどうをうまく混ぜて作るといったやり方もあります」
「あの、質問していいですか」
小さく手を挙げたのは、悠香。
「はい、どうぞ」
「さっき出てきたフリーランとプレスランでしたっけ? あれって、わざわざ二種類あるってことは、どこか違いがあるんですか?」
「はい、ございます。ワインの切れ味、口当たりに関わっています。フリーランは品のよい、さっぱりした物になり、プレスランは渋み等の個性を持つワインになるとされています。これでよろしいでしょうか?」
「あ、はい、分かりました」
その悠香の後ろで、頼井がしきりにうなずいている。
「なるほど。あせって無理矢理搾るとがさつなのができて、じっくり待てば繊細なのができるんだな」
「何を言ってるのよ」
振り返ってきた悠香に、頼井は苦笑いを浮かべた。
「いや、女の子との付き合いも一緒だなあ、と。じっくりと付き合った方が、親しくなれる」
「また、ばか言ってんだから」
二人のやり取りが聞こえたか、コンパニオンも苦笑しながら話を再開。
「別に、プレスランからできたワインががさつなのではありませんよ。個性が際立つという意味ですから。
話を戻しますと、次は発酵ですね。低温で二週間から三週間ほど置けば、ジュースの中の糖分がアルコールに変化し、ワインとなっていきます。ワイン酵母が糖分をアルコールに変えること、これをアルコール発酵と言います。発酵すればするほどワインは辛口になります。何故なら発酵が進むにしたがい、糖分がアルコールに変わるからです。
最後に熟成です。発酵が進んだ段階で、樽に移して二年から三年、貯蔵させます。この間に熟成が進み、独特の味や香りがはぐくまれるのです。それからガラス瓶に移し、貯蔵庫で瓶熟成の過程に入ります。ワインは出荷まで、こうして寝かされることになります」
パネル説明は終わった。いよいよ次は、実際の醸造過程である。
が、現在はまだぶどう採り入れの本格的な季節ではないので、最盛期の秋頃に比べると小規模な工程の見学になる。
それでも扱うぶどうの量は、驚くのに充分。
(すっごーい! 何だか、足で踏みたくなってきたな。ふふふ)
昔はぶどうを素足で踏んで果汁を搾ったと聞いたことがあったから、山と積まれたぶどうを前に、そんな感慨を持ってしまう公子。
上向きに大きな口が開き、横から潰されたぶどうが飛び出す破砕機。巨大な洗濯機の洗濯槽を横にしたような圧搾機。蔵に入って、大きな樽。
「この一樽で、七二〇ミリリットルの瓶一万本分になるんですよ」
そう説明されて、うわあと声を上げる。目の前には、そんな巨大な樽がいくつも並んでいるのだ。
それから瓶詰め工程。ベルトコンベアによる流れ作業だ。
また蔵に入ると、こちらは瓶詰めされたワインの貯蔵庫だった。数え切れないほどのワイン瓶が、大きな棚に入って寝かされている。
「寝かせるのは、外の空気を通さないためです。コルクは熟成の長い間に、瓶の空気の交換をやってくれますが、あまり通気がよすぎてもいけませんからね」
などと説明を受けて、工程の見学は終わり。工場を出ると、試飲コーナーが待っていた。すぐ横には即売のコーナーも設けられている。
もっとも、公子らは未成年故、似たような色をしたぶどう果汁を出された。
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