デートと年の瀬 9ヶ月目

目の前にいたのは雄貴ではなく見知らぬ男2人がいた。

外見からするに同じくらいの年代だろう。


「ねえ、君1人なの?クリスマスに可哀想だなぁー」


「あっ……その、えっーと……」

今まで、漫画やドラマなどではこういうナンパの場面を見たことはあったが、実際に遭遇すると怖くて上手く喋ることが出来なかった。


「今から俺達と一緒に遊ぼうよ」


「いや、一緒に来てる人がいるんで……」


「え?でも1人じゃん。ね、行こうよ?」

男はそう言うと私の腕を掴んできた。

引き剥がそうと思っても力で負けてしまって男の手が全く離れない。


その時、私の腕を掴んでいる男の手を誰かが掴んだ。

そのまま私の腕から引き剥がす。

雄貴がトイレから戻ってきたみたいだ。


「すいません、俺の彼女に何か用ですか?」


「くっ……彼氏連れだったか、行こうぜ」

そう言って男2人は私の元から立ち去った。



「夏美、大丈夫だった?」


「うん。ありがとう、実際にあんなのに遭遇したのは初めてだったから怖かった……でも、雄貴が来てくれて本当に良かった」


「ごめんな、怖い思いさせちゃって……っ────」


無意識に私は雄貴の胸に頭を埋めていた。

助けて貰ったけどやっぱり怖かったんだろう。

心臓の音が伝わってくる。

一定のリズムで鳴る鼓動を聞いているとなんだか落ち着く。


何分そうしていただろうか。でも、雄貴は私が顔を埋めている間抵抗もせず、静かに受け入れてくれていた。





雄貴の鼓動の速さが段々早くなっていたことは私だけの秘密にしておいた。






水族館から出ると外はすっかり暗くなっていた。雄貴と過ごしていると一日がほんの一瞬のように感じていつも名残り惜しくなる。



街路樹などは綺麗にライトアップされていてまるで星のように光っている。


そんな雰囲気もあってか、所々でキスをしたり抱き合ったりしているカップルを見かけ、少し恥ずかしくなる。



「ねえ、雄貴。お母さんが今度家に来ないかって言ってたんだけど来れたりする?1回会ってみたいから連れてきてって半ば強引で全く引かなくってさ……」


「日程さえ合えば全然大丈夫だよ!そりゃあ自分の子供がどこの誰かも分からない人と付き合ってるって心配だもんね」


「いやいや、お母さんは付き合ってるのに反対してるとか全然ないから気にしないでね!

むしろ、いつもからかわれて少し困ってるくらいだよ」


「そっか、それだったらお母さん優しそうだし安心したかな」


話しているうちに駅前に着いた。もうお別れかと思うと寂しい。


「夏美」

雄貴に名前を呼ばれる。


「これ、プレゼント……結構悩んだんだけど、これがいいかなって」

そう言って綺麗にラッピングされたプレゼントを渡してくれた。


「ありがとう!私からも。はい、プレゼント!」

雄貴からプレゼントを渡されたからちゃんとプレゼントを持ってきてて良かったと安心した。


お互いに開けていいよと言い、ラッピングを開けていく。


プレゼントには白のリストバンドが入っていた。


それを見て私は驚いた。

別に雄貴がくれたリストバンドが変だったとかではない。ごく普通だ。


じゃあ、なぜ私が驚いたのかと言うと……


「えっ?これ、リストバンド?!」

雄貴がそう言った。

そう、私もプレゼントにリストバンドを選んだのだ。


「すごい偶然!お互いに同じプレゼント買うなんて」


「僕もびっくりしたよ……!プレゼントありがとう、嬉しい!」

それから数分間たわいもない話をして2人で笑い合った。


「……そろそろ帰ろっか。今日は本当に楽しかった、誘ってくれてありがとう!」


「うん、雄貴とクリスマスにどこか行ったら絶対楽しいだろうなって思ったから!

また今度どこか行こうね!」


「もちろん、じゃあバイバイ」

私はバイバイと返事をして雄貴と別れた。


帰り道、ずっと今日のことを思い出してにやにやしていた。

きっと傍から見た人は変な人に思われただろうが、あまり気にしない。





沢山嬉しいことがあったから今日は気持ちよく寝れそうだ。

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