もやもやと甘いやり取り 8ヶ月目

11月、街路樹も朽葉色くちばいろに染まり、だんだんと落ち葉が増えてくる季節になった。


私はいつものように学校で優芽と話していた。


「ねえ、夏美!駅前に新しいクレープ屋さんできたの知ってる?」


「クレープ屋さん?初めて聞いた!」


「そっか!種類も豊富で凄く美味しいらしいよ!私も今度一緒に行ってみない?」いいっここ


「いいよ、私も気になるし!」


そんな話をしていると教室の外から聞き覚えのある声が聞こえる。


「霧上さん、ちょっといい?」

山之上くんが教室に来ていた。

どうやら私に用があったらしい。

前までは山之上くんが教室に来るとザワザワしていたが体育祭での1件があってから物珍しく思う人は減り、普通のことだと気にしなくなった人が多かった。


「山之上くんどうしたの?」


「今日ね先生に呼ばれて帰るの遅くなりそうだから先に帰っておいていいよ」


「わかった、教えてくれてありがとうね!」


やりとりが終わると席に戻った。

が、優芽が不思議そうな目で私を見ているのに気づく。


「優芽、どうしたの?」


「夏美って山之上くんと付き合ってるんだよね?」


優芽が何を思ってそう言ったのか分からなかった。


「えっ?今頃何言ってるの?付き合ったって言ったじゃん」


「確かにさっきの行動とか見てると恋人に見えるけど………」


「そう見えてるんだったら問題なくない?」


「……じゃあ、なんでお互いに苗字で呼んでるの?」

優芽から言われた言葉で気づいた。


記憶を遡ってみると、確かに最初に出会ってから今までずっと苗字で名前を呼んでいた

それが普通で苗字呼びによって何も不自由がなかったからだろう。


「今の呼び方ほうが慣れてるし、無理して変える必要はないと思ってる」


「ふーん。まあ、夏美が良いって言うんだったらそれでいいけどね!」




無理をするのは良くない、そう思う。










それから数日後、

午前中の授業が終わって昼休みになり、私は山之上くんのクラスへ向かっている。

体育祭の日以来、お昼ご飯は一緒に食べようということになったのだ。


教室に着くと、いつもは廊下で待ってくれている山之上くんの姿が無かった。

不思議に思ったが、教室の中を探していると見つけた。


「山之上く──────────」


って昼ごはん食堂で食べてるの?」


「いや、弁当だけど?」


「じゃあさ、も一緒に私達と食べない?私達もお弁当だから!」

山之上くんは女子2人と話をしていた。

よくある普通の会話だ。

だが、それを見ていると何故か少しもやもやした。そして女子が喋る度にもやもやは増えていく。



「ごめん、昼は彼女と一緒に食べる約束してるからさ」


「そうだったんだ、邪魔してごめんね!」

そう言って山之上くんの元から離れていった。


そして私に気づいて近づいてきた。


「待たせてごめんね、それじゃあ行こっか」


そう言って内庭の端にあるベンチへ一緒に向かった。

そこのベンチは人が滅多に通らず、太陽が程よく当たる場所だったのでお弁当を食べるのに絶好の場所だった。


ベンチに座ってお弁当を食べ始める。

だけど、私の胸はまだもやもやしたままだった。理由も全く分からない。

考えれば考えるほど分からなくなりそうだった。


「………さん、霧上さん」

山之上くんが心配そうに呼んでいたのに気づく。考えすぎて周りの声が聞こえなくなっていたようだ。


「どうしたの?大丈夫?」


「……山之上くん最近なんかもやもやしたりすることってある?」


「もやもや……?ふふっ、あるよ」


「えっ?あるの?!その理由ってわかる?」


「…………………夏美」


「え、えっ?っど、ど、ど、どうしたの急に?!」

いきなり名前で呼ばれたため上手く話せなかった。心臓の鼓動が早くなり、思考力が落ちる。


「夏美、夏美、夏美……………」

山之上くんは名前を何回も連呼してきてそれ以外は何も言わない。

私はノックアウト寸前だったが、やられっぱなしは嫌だったので反撃する。


「……雄貴……………雄貴、雄貴、雄貴…」

私が連呼すると、山之上くんにも効いているようだった。少し顔が赤くなっている。


そこからはお互いにひたすら名前を呼び続けた。傍から見ればまるでバカップルのようだろう。まあ、確かに恋人同士なんだけど。


しばらくやっていると限界が来た。山之上くんも限界みたいでお互いに頭を抱えて悶えている。


「そういえば、もやもやの原因って何なの?」


「あ、それはねー…………なんだっけ?忘れちゃった…」


「なにそれ?はっ…ははははっ!」

私はその言葉がおかしく思い笑った。

つられて山之上くんも笑い出す。

そんなことをしている内に昼休みが残りわずかになっていた。それに気づき、急いでお弁当を食べて教室に戻る。





授業が始まり、結局なんなんだったんだろう?と考えていたが、どれだけ考えても分からなかったから仕方なく諦めた。




だけど、もやもやはいつの間にか消えていた。

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