体育祭が作る思い出 7ヶ月目
体育祭の日の朝、私はいつもより2時間も早く起き、お弁当を作っていた。
いつもはお母さんにお弁当を作ってもらっていたが、今日は体育祭ということもあり、山之上くんにお弁当を作ってあげると約束したのだ。
私は普段あんまり料理をしないので、この間お弁当に入れたいと思っているおかずの作りかたをお母さんに教えてもらった。
教えてもらうかわりに誰に作る予定だとか、山之上くんとの関係とかを根掘り葉掘り聞かれ、料理を作るより疲れた気がするがそれで料理が上手くなるのなら全然良い。
卵焼きの練習をしていて、味を調節しているうちに10個も作ってしまったということがあったが、それを含めても特にハプニングは起こらなかった。
うん、起こらなかった……よね?
お弁当を作り終え、いつの間にか起きてきていたお母さんに『愛情こもってるねぇー』とニヤニヤしながらからかわれたため言い返し、家を出る。
学校まではいつもより慎重にカバンを持ちながら歩いた。
そして体育祭が始まる、まずは定番のラジオ体操から行われた。
ラジオ体操が終わると、クラスの雰囲気が一気に盛り上がっていく。
私が出るハードル走は体育祭が始まってすぐの順番だったのでとても緊張している。
1番になれなくても転けたり、恥ずかしいようなことは絶対にしないようにということだけ気をつけていた。
そして、ハードル走のプログラムが始まる。1列ずつ4人が横に並んで走っていく。
前の人がスタートして私の番が回ってきた。
ゴールまでの距離は50mあり、その間に5つハードルが置かれている。
「よーい、どん!!」
その声が聞こえるとともにザッと一斉に駆け出す。
1つ目を飛ぶ。飛ぶ時に歩幅が合わなくて少し詰まったが2つ目、3つ目、4つ目と飛ぶほどに感覚が分かってきた。
そして2位でゴール出来る。私にしたら上出来だろうと少し油断してしまった。
最後のハードル飛ぶだ時につま先が引っかかってしまう。
バランスが崩れ、体が前に少し傾いた。
このままだったら転けては恥ずかしい所を見せてしまう………………
そして、結果的に着地する時に少しぎこちなくなったが転けはしなかった。
順位もそのまま2位をキープ出来たので安心した。
全員走り終わって、観客席に戻ると優芽に話しかけられる。
「2位おめでとう!でも、夏美ちょっと危なかったね、転けそうで冷や冷やした……」
「ちょっと油断しちゃった、でも転けなくてよかった…」
「そういえば!次は借り物競争だったよね?!山之上くん出るからしっかり見なきゃ!体操服姿はレアだからしっかりとこの目に焼き付けておかないと……!」
「なんか最近思考が変態じみてきてない?」
「しょうがないじゃん!非リアにとってイケメンを見ることは目の保養!生きるためのエネルギーだ!
夏美は末永く爆発しろ!」
「応援の気持ちと悔しさが混じって意味わかんないし!」
「あっ、夏美始まったよ!ちゃんと見とかないと!」
優芽がそう言ったのですぐにグラウンドの方に目を向け山之上くんを探した。
いた………!先頭を走っていた。しかもどんどん2位との差を離している。
そして1位のまま借り物の内容が書かれたくじが入っている箱までたどり着いた。
山之上くんはくじを引き、中を見ると悩むことなくすぐに走りだす。
というか、なんか近づいてきている気が……
さすがに気のせいかなと思ったが視線は明らかに私の方を向いている。
私の前まで来ると山之上くんが「ちょっと来てくれない?」と言って私の手を引いてゴールへ走り出した。
優芽はその様子を見て「ひゅーひゅー!お熱いねー!」と冷やかしている。
戻ったら覚えとけ…………
そのまま私は山之上くんと一緒にゴールしたが、お題が何だったのかすごく気になった。
運動部の女子とかかな?と考えていると、実況の声が耳に入ってくる。
「ゴール!!○組の山之上が1位でゴールしました!借り物のお題は…………っ!『大切な人』というお題だったようです!!!」
それを聞いて観客席の方からは歓声が上がり始める。
そして私はというと………
(は、は、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!こんな全校生徒の前で、こんなの公開処刑じゃん!でも、『大切な人』ですぐに山之上くんが来てくれたのはめちゃくちゃ嬉しいし……だめだ、恥ずかしいのが重なって体が熱い…ここに居たら蒸発してしまう…!)
限界になった私はトイレに全力ダッシュし、逃げ込んだ。
しばらくして落ち着くと、観客席に戻り競技を見ていた。
お昼休憩の時間になって山之上くんと合流し、
「霧上さんほんとにありがとうね!お弁当作ってくれて!」
「私がやりたかったことだしいいよ!お口に合うかわかんないけど、食べてみて!」
「じゃあ、まずは卵焼きを……もぐもぐ……
おっ、甘めの卵焼きだ!美味しい!僕甘めの方が好きなんだよね!」
「やった!山之上くんは甘めの方がいいかなって思ったから合ってて良かった…」
努力して練習したかいがあった……と思っていると近くを歩いていた優芽がこちらに気づき、近づいてくる。
「お!ふふふ…おふたりさん仲良いですなーお弁当箱がひとつ…そのお弁当夏美が作ってきたの?!」
「まあ、そうだけど……」
とちょっと照れながら返事をする。
友達に見られるのはちょっと恥ずかしかった。
「うーっ!青春って感じでいいねー!体育祭でお弁当作ってあげてそれをあーんして食べさせてあげるって…う、羨ましいな………
あ、あんまり邪魔しちゃいけないね、それじゃあ楽しんでー」
そう言って歩いていった。
それを見送り、しばらく普通に食べていたが、勇気をだして私は卵焼きを1口箸で掴み山之上くんに向けて言った。
「あ、あーん」
「……っ!き、霧上さん急にどうしたの?!」
「だって、恋人同士だったらこういうの普通だって言ってたから……あーん」
迷っていたようだが、ここで断るのは悪いと思ったのか諦めたようだ。
「あ、あーん……むぐんぐ……お、美味しいよ」
「う、うん。ありがとう…」
やってはみたものの、ものすごく恥ずかしくなりお互いに目をそらした。
山之上くんの顔を一瞬盗み見ると赤くなっている。いつもは私の方が顔が赤くなるが、ちゃんと私の事意識してくれてるんだなと思うと嬉しくなる。
そんな甘い空間が昼休憩の間私達の周りに漂っていた。
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