意外な一面と難しさ 6ヶ月目
夏休みが終わり、学校が始まる。
9月になるがまだまだ暑さは厳しく、30℃を超える日なんてざらにある。
夏祭りでの件で私と山之上くんは恋人という関係になったわけだが、毎日連絡したりする点以外で生活が変わるようなことはなかった。
が、それでいい。
他人に合わせようとこれまでの生活を大幅に変化させたりすると相手が家族であれ、恋人であれ、誰であっても少なからずストレスは感じてしまうものだ。
かと言って全然相手を気にしないのも良くない。恋愛はそこがすごく難しく、長い間上手くやっていくのは距離感がとても大事になってくる。
私は始業式での校長先生の長い話を乗り越え、教室で休憩していた。
すると、優芽がにやにやしながら私の席に近づいてくるのが見えた。
その理由はなんとなく想像がつく。
一応、一緒に夏祭りに行ったので優芽に山之上くんと付き合ったということをLINEで話したが、実際に会って話すとなると色々聞きたくなるだろう。
「夏美ー!」
やはり私に話しかけてきた。
「夏美さんは只今エネルギー切れで会話できません。またの機会にお願いします」
「いや、めっちゃ喋ってるし!しかもエネルギー切れってなんだよっ!」
優芽がツッコミを入れてくる。やはり作戦失敗か……
「ところで夏美、山之上くんとは上手くいってるのかなぁ…?糖分過多なくらいのあまーい話を是非聞かせろ下さい」
「敬語かタメ口どっちだよ!それに、山之上くんとは夏祭り以来会ってないから別に何も無いよ」
「えー、祭りの日の告白の時にお互いの思いを伝えてそのままキス……とかもなかったの……?」
「き、き、ききき、キス?!わ、私と山之上くんが?キス?!手を繋ぐだけでも精一杯なのに!」
優芽が突然言い出すので気が動転し上手く口が回らなくなる。
「その反応だとまだのご様子だねー
なんかめちゃくちゃピュアで聞いてるこっちまで恥ずかしくなってくる」
「しょ、しょうがないじゃん!恋愛とか初めてなんだから……」
「でもね、夏美。付き合ってるとはいえ、積極的に山之上くんと関わっていかないと段々と冷めていっちゃうかもしれないよ?山之上くんを狙ってる女子なんて山ほどいるんだから。例えば私とか、私とか、私とか」
「全部優芽じゃん!でも確かに言ってること正しいよね……頑張らないと……」
「でも、そんなに重く感じなくてもいいよ!
あっ……ひとついいこと思いついた……
今日から山之上くんと一緒に帰りなよ!」
「今日から?!」
「そうそう!一緒に帰ると恋人っていう特別感をお互いにもっと意識するし、山之上くんに彼女がいないって思ってる人が2人で帰ってるのを見たら諦めてもらうことができるでしょ?一石二鳥だよ!」
「確かに……!もしかして優芽、天才?」
「とうとうばれちゃったかぁ……!」
「その割には成績悪いけどね」
「ん?なんか言った?」
「いや、なにも言ってません」
その後、早速山之上くんに『 今日一緒に帰らない?』という文章をLINEで送る。
ドキドキしながら待ってると数分後に『いいよ!終わったらそっちのクラス行くね』と返事が返ってきた。
予定がなくて良かったー!と安心したが私は十分に理解できてなかった。
山之上くんがクラスに来るという意味を。
HRが終わり、山之上くんが来るのを教室で待っていた。
すると、廊下の方で何やら騒がしくなっているのに気づいた。
だんだん声が大きくなりこちらに向かってくる気がする。
そして……教室の扉が開いた。
そこには山之上くん……とたくさんの生徒がいた。
そしてやっと気づく。山之上くんのクラスは少し離れているため、教室しかないここの廊下を歩いていることに疑問があったのだろう。おおよそ、彼女と待ち合わせしているんじゃないかとか推測したのだろう。
そう、大当たりだ。
当たりも大当たり、的確だ。
「霧上さん、帰ろっか」
「う、うん」
少し緊張しながら返事する。
その様子を見ていた周りの生徒が『わー』とか『きゃー』とか声を上げた。
それがとても恥ずかしく感じ、居心地が悪かったのでお互い早歩きで教室を離れた。
校門まで行くと周りの生徒はいなくなった。
さすがにここまで来れば大丈夫か。と、歩く速度を少し落とす。
それにしてもほんとに山之上くんの人気はすごいな……と思っていると山之上くんが口を開いた。
「僕のせいでごめんね、居心地悪かったよね」
「山之上くんのせいじゃないよ。それより山之上くんと一緒に帰れることが嬉しいからいいの」
「……っ!霧上さんってほんとずるいよね」
少し顔が赤くなっているような気がした。
それを見て少し悪い思考がよぎった。
「これから一緒に帰ってくれる……?」
と少しあざとく言ってみる。
あざとくなんて初めてやってみたけどほんとに効くんだろうか?と思っていると、山之上くんは私に顔を見られないように必死に隠していた。
効果は驚くほど抜群のようだ。
そんな様子を見て山之上くんをからかうのも悪くないかもなんて思った。
こうして山之上くんの新たな一面を知ることができると同時に、
まだ全然知らないことばっかりなんだなと認識する。
これからゆっくり知っていこう。それでも遅くないはずだ…………。
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