花火に込めた実り 5ヶ月目
山之上くんと出かけた日からしばらく経ち、夏祭り当日の昼、優芽の家に村下くんと3人で集まっていた。
私は浴衣を持っていたのだが着付けを自分でできないことを優芽に話すとやってあげるから家に来てと言われたのだ。
「それにしてもさぁ…せっかく2人で行くチャンスだったのになんで私達も行くって言っちゃったの!」
「だ、だって2人だけでって言うのが恥ずかしかったんだもん!そりゃあ私だって言った後めちゃくちゃ後悔したよ!」
「まあ、夏美彼氏いたことないからしょうがないかー」
「いや、彼氏いたことないのは優芽もでしょ、捏造するなぁ!」
「あれ?そうだったっけ?」
優芽は棒読みでとぼけるように言った。
そんなことを話している間に優芽が私の着付けを終えた。
「はい、終わったよ!おおー!夏美似合ってるじゃん!」
「そうかな……?」
「そうだって!おーい!透真ちょっと来て!」
そう言って別の部屋で待機してもらっていた村下くんを呼んだ。
「夏美の浴衣どう?凄く似合ってない?」
「やばい、めちゃくちゃ似合ってて可愛い……」
お世辞かもしれないが似合ってると言って貰えて嬉しくなる。
「お、惚れそう?でも夏美は山之上くんがいるので席は埋ってまーす!残念でしたー」
「いや、そんなの知ってるって。それにしても似合ってるなぁ…あの山之上でも多分見た瞬間イチコロだな」
「いや、そんな簡単だったら苦労しないよ……」
2人に聞こえないくらいの声で小さくそう呟いた。
「それじゃあ、夏祭りデート大作戦決行ー!」
優芽突然そんなことを言い出す。
それに賛同するかのように村下くんも『 おー!』と言った。
「いつからそんな作戦作ってたのよ!私初耳なんだけど!ってか、村下くんもやる気だしっ!」
作戦の内容を聞こうとしたがその時のお楽しみと言って話してくれない。
本当に大丈夫ななんだろうか………
そんなことを話しているうちに時刻は夕方になった。
山之上くんとはまた駅前で待ち合わせとなっており、三人で向かっている。
もうすぐ山之上くんに浴衣を着ている姿を見せると思うと少しドキドキしてきた。2人は褒めてくれたが反応が悪かったら……と不安が募る。
待ち合わせの駅に着き、もう来ているかどうか辺りを見回す。
いた……………!
身長が高く1人だけ周囲の人とは違うオーラ(少なくとも私には見える)があるのですぐに見つかった。
3人で近づいていくと、山之上くんもこっちに気づいたようだ。
「やま……「山之上くーん!」」
山之上くんの名前を呼ぼうとしたが優芽に遮られてしまった。
よし……後で覚えておけよ……
そんな思いのこもった視線を優芽に向けた。
「浴衣来てきたんだけどどう……かな?」
山之上くんに尋ねる。
「す、すごく似合ってて…可愛いよ…」
そう言うと少し山之上くんの顔が赤くなった気がした。
「ほ、ほんと?ありがとう!山之上くんも似合ってるよ!」
平然を装ってそう言いきったが、多分私も顔が赤くなってるだろう。
「ちょちょ、おふたりさーん、アツアツなのはいいですけど自分たちの世界に入りすぎですよー!私達もいるからねー」
優芽の声で4人で来ていたということを思い出し、はっ、と我に返る。
「さ、さあ祭りももう始まってるみたいだし行こっ!」
話を誤魔化すためにそう言って歩き出した。
会場が近づいて来ると、だんだん人が多くなってくる。だが、まだ普通に歩ける状況ではあるので心配ない。
しかし、今日は花火が上がるのでその頃には人が溢れかえるだろうという不安があった。
花火が上がる時間まで焼きそばを食べたり、金魚すくい、射的など4人で遊ぶ。
村下くんが射的で次から次へと景品を落とし、屋台の人に、これ以上はごめんなさいと言われたこと以外は何もハプニングはなく楽しく遊んでいた。
そして予想どうり段々と人が増えてきている。
すると、優芽と村下くんがどんどんと離れていってるのに気づいた。
「ああー!人の波に飲まれちゃってもう合流できそうにないー!私たちは大丈夫だから楽しんできてー!」
私は人波に飲み込まれとく2人を見て思った……………………。
優芽……………………
…………………………
…………………………
なんだぁその雑なキャスティングと下手な芝居!あからさますぎだし!何が夏祭りデート大作戦だよぉ!ただ無理やり2人にさせただけじゃねぇか!
と心の中で大きく叫ぶ。
しかし、雑なキャスティングとはいえ、折角2人にさせてくれたのだから山之上くんとはぐれないように注意深く後ろを付いていく。
山之上くんもさっきから私がちゃんといるか気にかけてくれている。
すると山之上くんが急に私の手を握った。
「いい所があるから付いて来て!はぐれないように強く握っててね」
そう言うと花火の鑑賞席とは逆の方向に私の手を引いて歩いていく。
手を繋いだのはこれで2回目だけど全く慣れない。むしろ今回の方がドキドキしている気がする。
山之上くんに手を引かれ、連れられたのは花火が打ち上がる場所から少し離れた、木々が立ち並んでいる小さな神社だった。
「小さい頃ね、いつも家族と夏祭りに来てたんだ。屋台を回った後は毎年ここに来て花火を見るっていうのが当たり前で……
ここだと滅多に通らないし花火が綺麗に見えるんだ」
いつも来てたということはもう来なくなったのかと考える。踏み込んでいい話か分からなかったが聞いてみる。
「もう家族と行かなくなったの?」
「うん、大きくなるにつれてね…最後に家族で来たのは5年前。でも、僕にとって特別なものに感じるから毎年一人でここに来てるんだ。
あっ、そんなに重い感じじゃないからね!」
重い感じの話じゃないと分かり、少し安心する。
そのとき、「ひゅーーーー」という音が静かな神社に鳴り響いた。それと共に花火が上がっていくのが見える。
私たちはそれを無言で見つめていた。
花火が1番上まで上がり、光が消える。
そして、一気に一つ一つの光源が散らばり綺麗な円を造り上げた。
その数十秒間がまるで一瞬のように感じられる。それほど私は花火に見惚れていた。
今まで花火は何度も見てきたがこんなに魅力的な花火は初めてに感じる。
そして……思わず本心が零れてしまう。
それは私に限ったことではなかった。
「山之上くん…………好き……」
「霧上さん……………好き……」
2人の声が重なった。
そしてお互いに驚いた顔で見つめる。
「嬉しい……」
「嬉しい……」
また声が重なった。
それがおかしく感じ、お互いに堪えていた笑いが漏れ出す。
しばらくすると山之上くんが真剣な目で私を見て言った。
「霧上さん、好きです。付き合ってください」
その言葉を聞いて心から嬉しくなり涙が溢れてくる。
「私も山之上くんのこと初めて見た時から好きだったよ、だからよろしくお願いします」
まるで花火の光が私達だけを覆っているかのように幸せな空間に包まれていた。
こうして私たちは恋人の関係になった
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