出会いとすれ違い 5ヶ月目
〈 山之上 雄貴 〉
駅周辺を探した後しばらく集合場所に居たが霧上さんが来る気配は全くなかった。
今日はもう帰った方がいいかと思っている時、目の前で車椅子に乗ったおばあさんが急に止まる。
僕に何か用があったのか?と思ったがすぐに理由がわかった。
服が引っかかってタイヤが動かなくなっている。
僕はおばあさんに近づき、引っかかっていた服を丁寧にはずす。
「お兄さん、ありがとうね。病院に向かってたんだけど服が引っかかっるなんて思ってなかったから助かったよ」
おばあさんは僕にお礼を言う。
「いえいえ、引っかかってたのをはずしただけですから。病院ってこの近くの病院です?そこまで押していきますよ」
「うん、近くの病院だけれどいいのかい?」
「いいですよ、これも何かの縁ですし」
そう言ったが、本当の理由は少しおばあさんが疲れているように見えたためだった。
病院の前まで車椅子を押して送ると、何度もお礼を言って病院に入っていった。
もう一度だけ集合場所を見て居なけれは仕方ないけど帰ろう、と考えながら駅の方に向けて歩く。
駅前に着くと、集合場所で待っている霧上さんの姿が……なかった。
〈 霧上 夏美 〉
しばらくして立ち上がる。
何十分経っただろう。辺りは暗くなり仕事終わりらしき人が家路を急いでいる様子が多く見られた。
私も帰ろうと改札を通りホームで電車を待つ。帰ったらスマホを充電して山之上くんに連絡しないとなと思ったが、今日のことで呆れられていたらと考えると怖くなる。
「楽しい一日になるはずだったのになんでこんなことになっちゃったんだろう……」
そう呟くと目が潤んできて涙が出そうになる。
このまま学校でも避けられて疎遠になって…………
これ以上考えると涙が止まらなくなりそうだったのでやめた。
そこへ電車が来る。
ホームのアナウンス放送が流れ、ゆっくりと速度を落として電車が入ってくる。
気持ちを入れ替えるために下ばっかり向いていたらだめだと思い顔を上げる。
すると、反対側のホームに見覚えのある人がいた。
私が気づいたとほぼ同時にその人も顔を上げ、目が合う。
だが、ホームに電車が入ってきて視線を一瞬で遮られた。
今のはただの幻覚だったのではないか、何かの間違いだ。そう考えているうちに電車のドアが閉まり、発車する。
ゆっくりと速度を上げていき目の前を最後の1両が過ぎる。
幻覚でもない。間違いでもない。
反対側のホームにはやはり山之上くんの姿があった。
「山之上くん!」「 霧上さん!」
名前を呼ぶ声が重なる。
私は逆側のホームに向けて走る。
階段を1段飛ばして降りると逆側のホームの階段から山之上くんも降りてきていた。
すぐに駆け寄り、言いたかったことを話す。
「山之上くんごめん!1時間遅れちゃって……私から誘っておいて遅刻とか呆れちゃったよね……」
今はただ謝りたかったので言い訳をせずに言った。
「ううん、良かった。連絡つかなくて何かあったんじゃないかってずっと心配だったけど無事で良かった。
それに霧上さんのことだから何か事情があったんでしょ?」
「今までずっと探してくれてたの?
ほんとにごめんね…」
申し訳ない気持ちが溢れて謝ることしか出来ない。
「こういう時は謝られるよりありがとうって言ってもらった方が嬉しいんだよ」
「えっ……?うん、そうだね。山之上くんありがとう」
そう言うと山之上くんは笑顔を返してくれた。私も釣られて笑顔になる。
「ちょっと付いて来て!」
そう言って私の手を掴みさっき通ったばかりの改札を抜ける。
初めは起こったことが理解できてなかったがだんだんと整理できてきた。
「あっ……手……!」
そして、ようやく手を繋いでいることに気づいた。
体温がどんどん上がっていくのを感じる。
「着いたよ、あれに座ろう」
手を引かれて来た場所は公園だった。
山之上くんはブランコに近寄ると、そこに座ってゆっくり漕ぎ出す。
私もそれを真似するように座って漕いだ。
手はもう離れたがまだ繋いでいた時の感触が残っているのがなんとも気恥しい。
山之上くんに手を引かれていたのは数分だったが数十分のことに感じるくらい恥ずかしかった。
だけど、その分嬉しくも感じた。
しばらく会話がなくブランコを漕いだ時の金属が擦れる独特な音だけが鳴り響いていた。
だが、そんな空間も心地のいいものだった。
すると、山之上くんが口を開いた。
「ブランコに乗るのなんてもう何年ぶりだか忘れるくらい乗ってないなぁ…」
「私も。でも、こうして乗ってみるとなんか趣深くていいよね」
そしてまた訪れる沈黙。
しばらくして今度は私が口を開く。
「今日ね、駅前に着いたら男の子が迷子になってたんだ。それで山之上くんに遅れるって連絡しようと思ったんだけどスマホの電池が切れててね…ほんと、災難だよね」
今日のことなのにまるで昔あった笑い話のように話す。
「そんなことがあったんだ…でも事情があったっていう僕の予想は間違ってなかったでしょ?」
「山之上くんはほんと優しいね」
「僕は思ってるより優しい人じゃないよ」
少し声が低くなったような気がした……
「時間も時間だしもう帰ろっか」
そう山之上くんが言った。
空は完全に真っ暗で公園内の電灯だけが光の頼りになっている。
連絡手段もないため遅くなると親にも心配をかけてしまうだろう。少し名残惜しいが駅に向かって一緒に歩いた。
駅前まで歩いていると壁に貼ってあった1枚のポスターに惹き付けられる。
「山之上くん、今日水族館行けなかった代わりにこれ行かない?く、クラスメイト2人に行かないって誘われて、他に誘いたい人がいたら誘っていいよって言われたんだよね!」
2人でと言いたかったが恥ずかしさからか
後で優芽と村下くんにお願いしておこう……
「ん?夏祭りかー!その2人がいいなら僕も行きたいな、その日空いてるし!」
すぐにOKしてくれたのはびっくりしたが、一緒に遊べる予定ができ、嬉しくて飛び上がりそうになる。
「じゃあ、山之上くんも行くって伝えておくね!」
私たちの夏はまだ続く………………
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