出会いとすれ違い 5ヶ月目

夏休みに入り、1週間ちょっとが経ち8月になった。

毎日部活と宿題に追われる日々で忙しかったが優芽と遊んだりしてそれなりに楽しい生活を送っていた。

7月中に終わらせようと思っていた宿題も終わり、後は気兼ねなく遊べる…!と思っていたのだが、今私はとても焦っていた。


その理由は時を遡ること2週間前、7月中旬。

私は期末テストの成績で山之上くんに見事勝ち、1つお願いを聞いてもらえる権利を得たのだが肝心なお願いの内容を決めていなかった。

そのため、LINEで決めようということになった。

トーク画面を開いてお願いを考えていると間違って通話ボタンを押してしまった。

やばい…!と思い取り消そうとするがそれよりも先にスマホから声が聞こえてきた。


『もしもし、霧上さん?』

好きな人の声が急に耳元から聞こえてきたため、ゾクゾクし、全身に電流が流れたような感覚になる。

数秒間間があったが、なんとか口を開いた。


『もしもし、急にごめんね。間違って通話ボタン押しちゃって…』


『今何もしてなかったから大丈夫だよ』

それから十分程部活のことや学校のことなどたわいもない話をしていた。


『そういえば間違って通話しちゃったってことは何か僕に連絡があったんじゃない?』

話が弾んで楽しくなってるうちに本来の目的を忘れていた。


『あっ…そうだった。お願いのことなんだけど、この間友達と行ってきなさいって親から水族館のチケット貰ったんだけど一緒に行かない?』


『水族館?いいね!行ったの小学生の時以来だから行ってみたいな! 』


『 ほんと?!良かった!行く日は8月の5日とかどう?』


『霧上さんが行けるなら大丈夫だよ』


こうして山之上くんとのお出かけが決まったのだ。

てか、電話で話してる時は意識しなかったけど、これって普通にデートじゃん!!前回出かけた時も優芽に(デートじゃん!ひゅーひゅー)とからかわれていたが、手伝いの気分で行ったのでそんなに緊張しなかった。


しかし、今回は誰がどう聞いてもデートだった。

初めてのデートでは絶対に失敗できないと意気込み…………



そして現在の状況に至る。

もう一度言うが今、私は焦っている。

何故かと言うと、デートで超重要項目の服について困っていたのだ。

恋すらしたこと無かった、ましてやデートなんて恐れ多かった。

そのため、私にはどんな服を着ていけばいいのか分からなかった。


特に大人っぽい服を着ていくか、年相応な可愛い服を着ていくか迷っている。

しかし、悩んでいるうちに家を出ないといけない時間になった。仕方なく年相応の服を選ぶ。



集合場所の駅に着いたのは集合時間の5分前だった。山之上くんはまだ来てなかった。

私が先に来れたようでホッとしていると駅前で小さい男の子が1人で泣いていた。

近づいて話しかけてみる。


「どうしたの?」


「ま、ママがいなくなっちゃった」

聞いたことにちゃんと返事をしてくれたのでとりあえず良かったと思った。

迷子か…デートの予定があったがこの子を放っておく訳にはいけないと思い、山之上くんに連絡しようとスマホを取り出す……が画面が点かない。肝心な時に使えないのは困る。


山之上くんには少し待たせることになってしまうが親を探すのを優先した。


「最後にどこでお母さん見た?」


「さっき、お菓子とか置いてあるお店で買い物した」

お菓子……?と思ったが、駅前でお菓子が置いてある店と言ったら多分コンビニだろう。

しかし、駅周辺にコンビニは沢山あり、1つずつ行ってみるしかなかった。


1時間程探していると運良く男の子のお母さんと遭遇した。

お母さんは男の子を抱き締め「心配だったのよ」と言う。

私はその光景を微笑ましく思いながら見ていた。

男の子とお母さんはしばらくして私の方を向き『ありがとう』『本当にありがとうございます』と何度もお礼を言い帰って行く。

感謝の言葉を言って貰えると人助けも良いものだなと思える。


無事に帰っていったのを見て、私は急いで待ち合わせの場所まで戻った。

1時間ちょっとの間山之上くんを待たせてしまってるかもしれないのだ。


集合場所に着くと山之上くんはいなかった。

1時間も遅れてるのにもう帰ったよね……。

いや、彼のことだから携帯の連絡が無いから心配して探し回ってるかもしれない。

そう思い、集合場所でしばらく待つことにした…………




〈 山之上 雄貴 〉


僕は駅前の集合場所に集合時間ちょうどに着いた。

既に霧上さんは来ていると思ったがまだ姿がない。

少し遅れてるのかなと思ってその場で待っていた……


しかし、集合時間から1時間経ったが未だに来ない。

寝坊などで普通に遅れているなら連絡があるが、連絡もない。

何かあったんじゃないかと思い、集合場所を離れ、駅周辺を探し始めた。


それから1時間弱くらい探したが霧上さんは見つからなかった。

集合場所に戻ってみても居ない。

連絡も無かったためもう少し待ってみることにした。



夏美を探しに集合場所を離れた5分後、そこに探している人が居たとは知る由もなかった……



〈 霧上 夏美 〉


男の子を助けたあと、集合場所で40分くらい待っていたが山之上くんは来なかった。


集合時間から約2時間が経つ。

もう帰っている可能性が高かったが、水族館に直接行ったんじゃないかという可能性もあったため、水族館へ探しにいった。


水族館に着くとそこには大勢の人が溢れていた。

人混みを掻き分けるように水族館の外を一通り探したがやはり見つからない。

仕方ないので戻ろうと思い来た道を戻る。


探している間は気づかなかったが、ふと周りを見ると若いカップルがほとんどだった。


「今日は楽しかったねー!」


「そうだね、水族館も凄く綺麗だった」


そんな会話が聞こえてくる。


私も今日山之上くんと来れてたらあんな感じに会話出来てたのかな?

私が時間になっても来ないから呆れられちゃったのかな……

なんて考えてると少し悲しくなった。


とぼとぼと歩いて駅前に戻る。

帰ろうかと思ったが、そのまま物思いにふけり黄昏時たそがれどきの景色を座って見ていた。




夏美が水族館に探しに行った後すぐ集合場所で待っている人がいたとは知る由もなかった……

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