いざ、尋常に! 4ヶ月目
7月に入り、季節はすっかり夏になっていた。暑さが私たちの体を襲ってくる。
だが、そんな暑さにも負けないほど私は熱くなっていた。
今にも、かの有名テニスプレイヤーの人みたいに『 熱くなれよ!』と言い出しそうな雰囲気を出しているとも言われた。
それもそのはず、今私は期末テストという大事な勝負のため必死に勉強していた。
テストまではもう一週間を切っている。
普段もテスト前はそこそこ勉強しているが今回は訳が違う。
この前山之上くんと一緒に出かけた時に期末テストの成績が低かった方が成績が高かった方のお願いを1つ聞くという約束をしたのだ。
「あぁー!疲れたぁーもう勉強したくない」
そう言っているのは誰かと言うまでもないが友達の優芽だ。
学校が終わって放課後の今、私と優芽と村下くんの3人で教室で勉強をしていた。
優芽が私に少しで良いから勉強教えて欲しいとお願いしてきたので仕方なくお願いを受けた。
なにせ、優芽は中間テストの成績が悪く、期末で頑張らないと学年をもう一度やり直すか否かという危機的状況になるからだ。
「って、なんであんたもいるのよ!」
優芽は村田くんに向かって少しきつめの口調で言葉を放つ。
「誰かさんが友達に成績がやばいから助けてって言ってるらしいから援軍として呼ばれたんだよねー」
この2人いつも言い合ってないか……?と思ったが気にしないでおこう。
そう、村田くんは私が呼んだ。
優芽を助けたい気持ちもあるが、私の事情も事情で自分の勉強を優先したいので助っ人として呼んだ。
「私も時間はあんまり取れないから手伝ってもらうの」
納得したようなしてないような、そんな顔をした。
「そういえば、あんた成績いいの?」
気になったのか優芽が質問する。
「霧上さんみたいに凄く良いって訳じゃないけどそこそこかな。中間は22位だった」
「ご指導の程、よろしくお願いします」
成績を聞くなりすぐに数分前の態度とは全く変わり、丁寧に頭を下げていた。
「でも、夏美ほんと山之上くんのこと好きだよねー」
「っ…!いきなりなに言うのよ!」
恥ずかしくなって強く言って誤魔化す。
「だってさぁ、お願いを一つ聞いてもらえるだけなのにそんなに必死で頑張れるってもう好き以外のなんでもないじゃん」
言っていることは間違ってなかったため反論できなかった。
「山之上ってあの中間テスト一位だった人?」
村下くんが尋ねてくる。
「うん、知ってるの?」
「そりゃあ知ってるよ。頭がいい上に超イケメンだし知らない人を見つける方が難しいと思うよ。
しかし、霧上さん山之上のこと好きだったんだー!青春って感じでいいよなー
そういえば部活も同じテニス部だったよね?」
「ちょっと!夏美の恋愛話あんまりずかずか聞かないでくれる?これだから彼女いない歴=年齢の人は…」
優芽が村下くんの質問を遮るように言った。
いつも事細かく聞いてくるくせに人のこと言えないでしょ!と心の中でツッコむ。
「なに?!お前だって彼氏いたことないだろ!なんなら一緒にどこがダメで彼氏ができないのか考えてやろうか?
あー考えなくてもいっぱい浮かんでくるなー」
「ちょっとお二人さん、もう一人生まれてから恋人ができたことがない人がいるって事忘れてないかな?」
私はニッコリと満面の笑みを浮かべて言った。
「「あ……」」
私の言葉を理解するとすぐに顔が引きつった。
そう、あれだけ恋人が居ない人のことを色々言い合っていたのだ。私にもダメージがないわけが無い。
それから数時間、勉強が終わるまで恋愛関係の話は全くと言っていいほど出なかった……。
そんなこんなで放課後の勉強会も毎日行い、テストがやってくる。
テスト中にもこれまでにないくらい集中して解き、当然見直しもした。
全教科が順調に進み、終了した。
中間テストの山之上くんの成績は9教科で857点。
1教科の平均が95点という半端じゃないくらい高い点数だった。普通だったら勝つことは出来ない。
しかし、テストで95点以上を取るのはもはや運も関わってくる。先生は100点を取らせないように高難易度の問題を入れてくるのだ。
その為95点ラインまでは勉強をして後は部分点でも貰えそうな問題であってくれと願った。
そしてテスト結果が発表される日になった。
優芽は中間テストの時より元気そうにしている。手応えがあったようで安心した。
1週間みっちり私と村下くんで勉強を見ていたため成績が大幅に上がっているはずだ。
普段のテストでは緊張しないが、今は凄くドキドキしている。発表を今か今かと待っていた。
「テスト結果張り出されたぞー!」
中間テストの時と同じくそんな声が聞こえてきた。
テスト張り出し速報くん(勝手に着けた名前だけど)いつもありがとう……
そう思いながら急いで結果を見に行く。
今回は10位から結果を見た。
山之上くんなら絶対入ってるはずだからそれより上に私の名前がなかったら負けだ。
10、9、……5まで見るがどちらの名前も無い。そのまま1つずつ見ていく。
すると3位に知っている名前があった。
3位 山之上 雄貴 846点
勝負が決まった訳では無いが山之上くんが1位ではなかったため勝っている可能性はあることに安堵する。
それにしても私が山之上くんより上だったとしてあと一人いることが不思議に感じた。
そして2位を見る。名前を見て凄く驚いた。
2位 村下 透真 848点
村下くんは中間でそこそこ順位が良かったのは知っているがまさか2位まで上がっているとは思ってもいなかった。
そして、あと1枠。入ってますようにと全力で願ってゆっくりと1位の名前を見る。
そこには………………
1位 霧上 夏美 859点
私の名前があった。
嬉しすぎて無意識にガッツポーズをしていた。
すると後ろから声をかけられた。山之上くんの声だ。
ガッツポーズを見られたと思うと恥ずかしかったが、今は嬉しさが勝つ。
「霧上さんすごいね……!完敗だったよ」
「いや、そんなことないよ、10点くらいしか変わらないから少しでも気を抜いてたら負けてた」
「負けた方が1つお願いを聞くんだったよね?じゃあ、お願いって何か聞かせて貰っていい?」
そう聞かれて答えようとする…が言葉が出てこない。
「あ……お願いする内容決めてなかった…」
お願いを聞いてもらえることにしか目がいかず、肝心なお願いを決めていなかったのだ。
「ふっ、はっはっははは!きっ、霧上さんそうやって時々抜けてるところあるよね!」
笑われて恥ずかしくて顔を手で隠す。
「あ、ごめん!そういうところも可愛いって言いたかったんだ。だから顔を覆わないで」
山之上くんは私をフォローしたつもりだがそれは全くの逆効果だった。
『可愛い』という言葉が頭で反復されどんどん身体の温度が高くなっていく。
さっきとは違う意味で恥ずかしくなり、あたふたする山之上くんを気にせずさらに強く顔を覆った。
そうして私と山之上くんの期末テストの勝負は終わった。
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