入学後に迎える最初の壁 2ヶ月目

校門に咲く桜がすっかり散り、若葉が新しい色彩を放っていた。


「教室ポカポカしてて気持ちいいー窓からも心地いい風が入ってきて眠気が襲ってく…むにゃむにゃ」

「って、喋りながら寝てるし!しかも現実でむにゃむにゃって言う人初めて見たわ!まあ、優芽の席窓側の1番後ろだもんね…羨ましいなー」

「私くじ運だけはめちゃくちゃいいんだよね、中学の時もほとんど前の方の席になったこと無かったし!」

そう言いながら私に向けてピースしてくる優芽。


「でも、優芽が時々授業中に寝てるの私気づいてるからね」

「うっ!…あ、あれは寝てるんじゃなくて漆黒の闇が私を呼んでいるだけなんだ……」

「変な言い方してるけどそれ全く同じ意味じゃん!ああ、意味がわかってしまったのがなんか悲しい…」

「ひどっ!」

「それはそうとして寝てて大丈夫なの?」

「え?なにが?注意はされてないから大丈夫だと思うけど…?」

「2週間後に何があるのか知ってる?」

「うん?」

「まじか…先生達もそろそろテスト近づいてきたから準備しておけって言ってたでしょ?聞いてなかったの?」

優芽に言うとまるで石像のように動きがピタッと止まった。

名前を読んでみるけど反応無し。

本格的におかしい人になってしまったのか!なんて考えていると優芽がいきなり立ち上がった。


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!テストぉぉぉ!わすれてたぁぁ!」

急に大声で叫び出したため教室が静まり返り、視線が集まる。

そして机に崩れ落ちるようにして頭を抱えた。


「ど、どうしよう…このままでは答案用紙が酷いことになっちゃう!」

「ま、まだ大丈夫だって!今から勉強しても全然遅くないから!」

「ぐずっ、夏美ぃぃ……!」

私の言葉が嬉しかったのか、感極まった顔で抱きついてきた。

教室の中にいた人は優芽にされるがままになっている私を気の毒そうに眺めていた。


授業が終わり、放課後になるといつものように優芽が私の元に来る。


「夏美ー部活行こー!」

「うん!」

私と優芽は体験入部をきっかけにテニス部に入部した。練習は毎日あってきついと思う時もあるが、テニス自体は好きなので楽しく続けることが出来ている。

因みに山之上くんもテニス部に入ったらしいが、その理由でテニス部に入ったわけではない。楽しいと思えるから入ったのだ。同じ競技だと共通の話題ができて話したりする機会があるかもなんて決して思っていない。決して。



反対のコートから来たボールがロブ気味で少し余裕があったため速いボールを打ち込もうと力を入れて打った。

「あっ…!」

力を入れすぎたせいかボールはコートを超えて飛んでいく。


「はははっ!ホームラーーン」

「いちいちからかわなくていい!優芽だってよくオーバーしてるでしょーーーーー」

ボールの行方を目で追いながら優芽に言い返していると、隣で練習している男子テニス部のコートに立っている人に向けて飛んでいることに気づいた。


「危ないっ!!避けて!」

私が咄嗟に叫ぶと気づいて振り返った。

が、時既に遅しだった。

ボールが頭に直撃し、その場に倒れた。


振り返った時に気がついたのだが私のボールが当たったのは山之上くんだった。

急いで近くに寄り声をかける。


「山之上くん!大丈夫?山之上くん!」

名前を呼ぶが反応は無い。が、数十秒すると私の声に気づいたようだ。

「ううっっ……霧上さん…?全然大丈夫だよ…」

と言っているが全く大丈夫そうには見えない。


「保健室に行こう。私の肩に寄り掛かっていいから歩ける?」

「…うん、ありがとう」

彼は一瞬申し訳無さそうな顔をしたが自分一人では歩くのが難しいと思ったのか素直に返事をした。

途中、彼と私の身長の差が大きくて逆に歩きづらいのではないかと思ったが、そのまま運び続けた。

それが彼が心配だったためか、彼と一緒に居れることが嬉しかったためかはわからない。


保健室に行ったが、先生は居なかったのでそのまま入り、椅子に座らせる。頭を冷やすために袋に氷を入れて結んだ後山之上くんに渡した。


「これで冷やして」

「ありがとう」

そう言って、氷袋を頭に当て冷やし始めた。


「ごめん!強く打ちすぎて私が打ったボールが山之上くんの頭に当たってしまって……」

「いや、気にしなくて良いよ、ここまで運んできてくれたし感謝したいくらいだよ」

「私のせいで怪我しちゃったのに…何かお礼にして欲しいこととかある?」

「そんな!お礼なんて……」

「そうしないと私の気が済まないからいいの!」

半ば強引にそう告げた。


「そっか、じゃあ友達にプレゼントをあげたいと思っているんだけどテストが終わってから選ぶの手伝ってくれる?」

「そんなことでいいの?私で良かったらそれくらいウェルカムだよ!」

そう笑顔で話した。

その後、テスト後の約束の為に連絡をとれた方がいいという結論になりLINEを交換した。

そんなやり取りをしていると保健室の先生が戻ってきた。

少し腫れているだけだと思うから安心してと言われてほっとする。辺りも暗くなってきてるし今日はもう帰った方がいいと促されたので保健室を出てそのまま家に帰った。


次の日、学校に行くと優芽が教室に入ってきた私を見つけ、すぐに駆けつけた。

昨日山之上くんを保健室に送ったまま部活に戻らなかったので心配したのだろう。


「夏美!山之上くん大丈夫だった?」

「うん、腫れてるだけだから大丈夫だって!」

「良かったぁ……」

「それでそれで?昨日のことをもっとく•わ•し•く!」

優芽が食い入るように聞いてきた。特に隠すこともないと思ったので素直に昨日あったことを話す。


「えええええぇぇ!!今度二人で一緒に出かけるの?!それってもうデ、デ、デ、デートじゃん!」

「デートなんてやめてよ!変に意識して恥ずかしいじゃん!プレゼントを選ぶのを手伝うだけだからっ!」

「いやいや、羨ましいよ……しかもちゃっかりLINEまで交換しちゃってるし!」

「夏美も隅にはおけないなぁー」

「ニヤニヤしながら言わないでよ!」

結局その日は1日優芽に疲れるほどからかわれ続けた。

てか、私隅に置かれてたんだ……はははー。

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