始まりの季節 1ヶ月目

入学から少し時間が経って4月半ば、学校にも少し慣れてきてそれなりに過ごしやすくなった。

いつものように教室で優芽と話をしていると私達の前で誰かが立ち止まった。

も、もしや!このシチュエーションはこの間のイケメンが私たちの前に現れて友達になり、少しずつ距離が縮まっていくやつか?

いかにもラブコメにありそうなことを期待しながら顔をゆっくりあげていくとあのイケメンの顔が…


「……イケメン……じゃなかった」

「って、初対面でそのリアクション?!ひでぇ!確かにイケメンじゃないけどさ、シンプルに傷つくっ!ああっ、もうダメだ、さらば、俺の青春……」

「いやっ!違う違う!こっちの事情っていうか独り言みたいなものだから気にしないで大丈夫だから!」

「それ、尚更悲しいやつじゃん……」

しまった!フォローしようと思ったけど逆効果に!私の勝手なラブコメ想像で1人の男子を傷つけてしまった!私って罪な女ね…てへっ!ってそんなこと考えてる場合じゃなくて、傷つけたのどうにかしないと…優芽に助けを求めるようなコンタクトをしようと思い前の席に視線を向けた。

そのとき。


「ぶぶっ、はっはっはっはははははは!!ちょ…お腹痛いお腹痛い!初対面の人にイケメンじゃないって言われてやんの!はっはっははははっ!」

「うるさい!笑うなぁぁ!こっちの気持ちにもなってみろぉぉ!」

まるで知り合いのような会話を交わしていた。(会話と言っていいのか分からないが…)

これはもしや、ラブコメでありがちな事その2、幼馴染出現パターン?!

そんなことを考えながら優芽に問いかける。


「えっ?優芽はその人のこと知ってるの?」

「うん、えー 、わかりやすく言うとこいつはね、私の幼馴染ってやつだね」

「きたーーーーー!!やっぱり幼馴染!私のラブコメセンサーがガンガン鳴ってるっ!」

「夏美どうしたの?何言ってるかさっぱりだけど……」

「あっ!き、気にしないで!」

そう言って次に目の前にいる男子に目を向けた。

「急にごめんね!イケメンじゃないとか全然思ってないから気にしないで!」

「そ、そうか?それなら良かった…」

「何照れてんのよ!そんなのやさしーい夏美ちゃんのフォローに決まってるでしょ!しかもイケメンとは言ってないしねー」

優芽が私の言葉に補足するように話す。


「うぐっ…まあ、それは置いといて俺は優芽の幼馴染の村下透真むらしたとうま、優芽がお世話になってるみたいだね。これからよろしく!」

優芽を少しからかうようにして話した。


「私は霧上夏美、こちらこそよろしくね!」

村下くんは「おう!」という返事を返して席に戻って行った。


1日の授業が全て終わり、礼をした後すぐに優芽が話しかけてきた。


「そういえば、夏美はなんの部活に入るつもりなの?」

「あ、そろそろ決めないとだよね。五月になったら入りづらいし…」

「3年間続くものだし感覚で決めない方がいいよね、そうだ!今日テニス部の体験に行こうと思ってたんだけど一緒に行ってみない?」

「そうなんだ!私もテニス部気になってたし、まだ行ってないから良いよ!」

「やった!」

そんなやりとりの後、たわいもない話をしながら一緒にテニスコートに向かった。


体験が終わり、私と優芽は制服に着替えるため、部室に向かいながら感想を話していた。


「疲れたぁぁーテニス難しすぎ!」

優芽が大きめな独り言のように言った。

「ほんとにね!私なんて何回も空振りしてほんと恥ずかしかった…」

「はははっ!その時の絵面がなんかシュールで面白かったぁーでも、楽しかったね!」

「うん!入部するの考えてみーーー

あっ…」

目の前にテニスボールが転がってきた。

私はそれを拾い上げて周りを見回す。


「どこから転がってきたんだろう?」

そう呟くとコートの方からボールを探しに来たと思われる男の人が走ってきた。

ん?どこかで見たことあるような……


「ボール拾ってくれたんだ、ありがとう!

君は……あっ!この間ぶつかっちゃった人だね。大丈夫だった?」

予想外の人が現れたために私は少し緊張してしまう。

「はい!問題なかったです!そういえば、あ、あの…名前なんていいますか?」

「確か前は用事があったから自己紹介出来てなかったんだったっけ?ごめんね、僕は山之上雄貴やまのうえゆうき、今年の春からこの学校に入学してきた新入生」

「私は霧上夏美…です、横にいるのはクラスの友達の優芽…です」

私はぎこちなく話していると、


「ふふっ、同学年なのに敬語じゃなくてもいいよ!無理に変えることは無いけど霧上さんの楽なような話し方をしてくれると嬉しいな」

彼は私に気遣って言ってくれた。その時、彼の背後から声が聞こえてきた。


「おーい雄貴!見つかったかー?」

そんな声が聞こえ、彼はボールを取りに来たということを思い出したようだ。

「それじゃあ、また今度」

そう言って彼はコートの方に走っていった。

彼の後ろ姿をしばらく見ていると優芽が私を見ながらニヤニヤしていたように感じた。


「また会うなんてびっくりだったねー!」

「うん、気を遣ってくれたし優しそうだったね」

「で、あのイケメンの人とどうやって距離を縮めていくつもりなの?」

「うーん、そうなんだよね…私も考えてるんだけど……って、あっ…」

「やっぱりそうだったかぁー!まあ、なんとなく気づいてたけど夏美結構な頻度であの人のこと話題に出してたもんね!」

「嵌められたっ……」

「そんなこと言わずに、協力してあげるからさっ!それでそれで?一目惚れってやつ?」

「うん……そう……なのかな?」

「えっ?他に何かあるの?」

「いや……私今まで恋愛とかしたこと無かったからあんまりわからなくて…」

「えええええぇぇぇぇぇぇっ!!!!本当?ってことはこれが初恋?きゃー!尚更やる気が出てきた!夏美、この恋絶対成功させよう!」

「う、うん」

私は何故かやる気な優芽に少し押され気味になりながら返事した。


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