第9話 ウサギを狙うもの
ウメコはフト気になりバイザーをあげ、コンソールの虫群レーダーに目をやった。切れ間が変化しているようだった。「あのさ小梅、さっき切れ間を見つけたときの位置情報と、
『オヤスイ御用サ』
トランスヴィジョンに、色分けされて表示された切れ間が、形を少しずつ変えながら分刻みに移動する経緯がカシャカシャ映し出される。
「蝶につれて切れ間が動いてる・・・」
あの迷信はまったくの出鱈目ではないんだ。蝶にクラック虫どもが近づかない科学的根拠は確かにあるのかも知れないが、ウメコは考えてもわからないことは棚上げにする。それにしても、とウメコはもう一方のアタマで思考を続けた。あんな優雅に地上を舞っている蝶ちょが、とても音楽を奪いにやってきたようには見えない。すでにその飛んでいること自体がさながら五線譜の上を舞っているようだし、むしろそんな蝶ちょの美しさに見とれた下賤な虫どもが固唾を飲んだ静けさと、奴らの分際ではとても畏れ多くて近づけないという態度にさえみえる。そうでなければ、やっぱり虫
――蝶を見たら音楽を止めよ、って、この世界の女王のお通りだから静粛にしろ!ってことなんじゃないのかな?――
そんなことをおぼろげに考えながらウメコの操縦する、バグモタ・クラックウォーカー<小梅>の頭部のウサ耳が、何かを察知してわずかに動いた。
バイザーを下げたウメコが、その目に再び小梅の視界を直接投影させて、蝶に狙いをさだめ、網を振り上げ、アクセルを踏みこもうとした、そのとき、ジジジジジー!!と耳をつんざく警告音が再びコクピット内に鳴り渡り、トランスヴィジョンは赤く縁どられた。「なんだよ!?」
『無登録、所属不明くらっくうぉーかーガ近クニニイルゾ!気ヲツケロ!』
小梅はウメコのバイザー内視界に、小梅の立ち位置を中心とした半径50m圏内のマス目を透かして映した。その端の位置に点滅する赤い点がそれらしい。
「アンチネッツの
捕虫圏内のこんなところに現れる、管理局に登録されていない非合法バグモタなら、密猟者か、バグモタ狩りかの、いわゆる
とりあえず防衛処置の一つとして、<
――まったく、なにが起きるか、わからないな――そうして、
まぼろしの蝶どころでなくなった。小梅の足を完全に止めると、毒づきのひと言さえ忘れて、ウメコはバイザーを上げ、コクピットのサブモニターにこの非合法バグモタの、トランスネットで受信して処理される合成映像を映してみた。無登録のそれは、ジャミングされたようなシルエットしか映し出されなかった。トランスネットの網目をすり抜けて
『<
「古い機体だな、お前より3世代は前の型だろ?バグモーティヴエンジンもそのままなのかな・・・?」
『ソノヨウデス』
「ならたいしたこたないな。装備は?」
『虫込め弾式銃砲ヲ持ッテイルヨウデス』
「ムシっ!やっかいだな・・・」
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