第4話 虫播きの魔女
それは『虫
その伝説とは、ラッパに乗った魔女、最初の<ウィキッド・ビューグル>がこの世界に降臨したきっかけのお話である。お話は人間に恋をした一匹の蝶ちょから始まった。
その蝶ちょが恋をしたのは、とある人間の国の王子様だった。けれど人と蝶ではけして叶わぬ恋。蝶ちょはどうにもならない己が身の上を嘆くも、はかない一生を報われぬ恋に捧げる覚悟をきめたとき、風の噂に遠い地に、姿を思いのままに変えることのできる魔法をあやつる魔女の住むことを聞きつけた。寒い冬の到来を前に、蝶ちょは希望だけを胸に抱き、ひらひらとその魔女の住むという地を目指して、決死の覚悟で飛んで行き、
魔女の要求に蝶ちょは応えた。「もちろんですとも。ワタクシどもは花園の宮殿を構えております故に。あいにく開花の季節は終わりつつありますが、新しい春が参りましたら是非ご来訪くださりませ。あなた様のお乗りのそのラッパのように、顔をプクッと可愛らしく開いた美しい花々の楽団が、ワタクシめの指揮をいまかいまかと待ちうけながら、とても待ちきれずに美しい音楽で咲き乱れておりますさまを!」
そのような花園の秘密を知らなかった魔女は、蝶ちょの持ち出した提案におおいに魅かれ、冬を越せない哀れな蝶ちょのために、特別に支払いを先送りにした取引に応じてやった。
そして念願が叶い、はれて人間の、それももとの美しい姿の名残をそのまま留めた娘の姿へと変わった蝶ちょは、今度は自らが花のように幸運を引き寄せ、あの恋焦がれた王子様の目にもとまり、めでたく結ばれたのだった。
それから春が訪れ、花園の演奏会を楽しみに、いつものラッパに乗ってはるばる出掛けてきた魔女は、どれ咲き乱れた百花繚乱の花園の一等席で、開演間近の静寂の中、いまかいまかと音楽の始まるのをえんえん待ち続け、ついに朝露の一滴すら一音も発しないまま冬を迎えるに至ったとき、あの蝶めに一杯食わされたことにやっと気づくと、怒り心頭、花園に、いやそれどころかこの世界全てを喰らい尽くすほどの虫どもを、あのラッパから播き散らしたのだった。
けれどこれは忘れさられた古い昔話だった。まだこの頃は「虫
しかし虫をエネルギーとして利用できるようになると、今度は逆に当時の開拓居住民たちにとって悪名高き「虫
とはいえウメコらのような捕虫圏で長く過ごしている人間の間では、たまに遭遇する虫巻きの目の中の、ほんのわずかな虫の切れ間でさえ「行方をくらませたはずの虫
――それにしても大きい――気まぐれとか、お通りにしてはいささか盛大すぎるとウメコは思った。
ところで、蝶ちょにだまされた怒りで世界に虫を播いた魔女<ウィキッド・ビューグル>は、不毛な土地に燃料を与えてくれた救いの存在として崇められるに至ったけれど、魔女をだました蝶ちょの方はというと、当然、<ウィキッド・ビューグル>に虫を播かせ、世界を潤した神の化身として、こちらも特別な扱いとなった。以前は魔女の怒りを怖れ、ずっとその存在をタブーとされてきたけれど、いまは畏敬の対象ゆえに、衣服や飾り、バグモーティヴなどの意匠に、蝶の姿をモチーフとしてあしらったりするのは引き続きご法度とされていた。
いまやわずかに命脈を保っているらしい蝶は、ほぼ
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