8話.団長登場!
「キース、居るかー? 起きろーっ! 出かける準備をするんだ!!」
宿にキトゥンの呼び声が響く。
私はその声に気付き部屋を出た。
「あ、スティープも出来れば一緒に来てくれないか? 今回はだいぶお世話になったからさ、うちの団長も是非会ってお礼がしたいって。しっかしキースはまだ寝てんのか、何やってんだ?」
「昨日、だいぶ飲んだみたい。ジークやルイ、キャサリンを連れてムイピカン亭に行ったの」
「そうか、じゃあ十分リフレッシュは出来たはずだよなー。おい! キース、鍵を開けろ!」
(ガチャ)
あれ?キース……どうしちゃったの? そんなにげっそりやつれちゃって……。
キトゥンも驚いてるわよ。
「ど、どうしちまったんだお前! なんかあったのか?」
「い、いやーなんでもねえよ」
「何でもないって……今日はエスパニル国王軍とユーサルペイシャンヌのメンバーで顔合わせも兼ね合同演習する事になったんだ。その様子じゃ無理そうだな、お前」
「だ、だいじょうぶさ!これくらいへいきさー」
言葉に全然力が籠って無い……。
「平気って言われてもなー……」
キトゥンは腕組みして考えている。
するとキースが私の耳元で囁いた。
(すまねぇ、ちぃと金貸してくれ! 素寒貧でまだ何も食べてねえんだ!)
(えっ? 素寒貧!? そんなに使ったの??)
(訳ありだ! 頼む!!)
私はキースにお金を渡した。
「お頭! まだ朝飯喰ってなかったから腹に力入んねえんだ……ちっと待っててくれ! 急いで喰ってくるから」
「そうだったのか、しょうがない奴だなぁ。じゃあここで待ってるぞ!」
キースは外に飛び出していった。
私はその間にキトゥンから合同演習の話について詳しく聞いていた。
「実は、ポルトゥールとエスパニルの統合話がまとまったんだ。あの竜の爪のお陰さ!」
キトゥン、嬉しそうね!
なんでもマヌエル王が竜の爪をダシに上手く交渉したみたい。
統一後、マヌエル王に仕えていたユーサルペイシャンヌはエスパニル国王軍の特殊部隊として編入される事になったそう。
「本当にうちの団長はスゲーよ、とんとん拍子にUPをここまで育て上げちまったんだから。それで併合の調印式やパレードはこの合同軍で警備する事になった。いやスティープは一応うちらの仲間だがお前の目的を優先して貰って構わない、事情が事情だからな。ただ今日1日だけは付き合ってくれないか?」
アーロン神父は結局まだ戻って来ていない。
一体どうしたのか心配だけど……。
でもアーロンさんなら何かあってもきっと戻ってくると信じていた。
昨日のヴァルツ兄の話から恐らくこの合同演習にはグレースさんも参加する。
もしグレースさんとも一緒に行くなら今日の演習後か明日朝出発になるだろう。
それまでにアーロンさんも戻ってくれれば丁度良い。
「判ったわ。ただ私は演習になるべく加わらない様に静かにしてたいな」
「あぁそうだな、その方が良い。正体がバレると一大事だしな」
あ、キースが戻ってきた。
……腹を満たして元気も戻ったみたい。
「キース復っ活ぅ! 心配かけちまったな、もう大丈夫だ」
「よし! それじゃあ行くか、姉御も団長もあっちで待ってるから」
「あ、私はジークとルイに一言かけとく。それと今日も私の事“スティープ”として接して貰える?」
「あぁもちろん、OKだ」
「任せとけって。そうだ! 俺、キャサリン連れて来なきゃ」
用事を済ませ準備が出来ると私達4人はエスパニル国王軍の訓練所に向かった。
◇
訓練所の入り口に到着した私達は、門兵と中に入るメンバーの確認を取る。
その先には背が高く美しいブロンドの女性が私達を待っていた。
脇にはミスティも居る。
(あの人がユーサルペイシャンヌの団長ね……!)
身に纏うその“気”が彼女の実力を表していた。
強い!
流石は一団の長、ここまでUPを育て上げた政治的な手腕だけでなく戦闘能力も十分ありそうだ。
「お主がカタリーナ殿でござるか? 私はアーデルハイト、ユーサルペイシャンヌの団長でござる。此度は誠に世話になった。心からお礼申し上げる」
“ござる”?
アルマン訛りか? それにしても凄い訛りね。
するとキトゥンが私の耳元で囁く。
(うちの団長、いい女なのに変な言葉の訛りがあるんだよなー。ま、あまり気にしないでくれ、うちらはもう慣れてるから)
私は頷き、そしてみんなの前である大事なお願いをした。
「あの、皆さんに今日1日お願いがあります。それは、私を“カタリーナ”では無く、“スティープ”という名で接してくれませんか?」
「なぜでござるか?」
「はい。実は、ここエスパニル国王軍には私の兄も所属しています。ひょっとすると今日の合同演習でも一緒するかもしれません。私はなるべく正体を隠し通したいのです」
「そうでござったか。では今日ここに呼んだのはちとリスクが高かったな、そこまで頭が回らず申し訳無かったでござる」
そう言って、団長は頭を深々と下げた。
「そんな団長! 俺が無理に連れてきちまったんだ、悪いのは俺だよ。頭を上げてくれ、俺が謝るから」
慌てるキトゥン。
良い団長、良い仲間に恵まれた良い組織だ。
「いいえ、リスクがあると判っていてもここに来る事を決めたのは私。お頭や団長に謝って貰う筋合いはありません。私の方こそ、皆さんに私の事情を押し付けてしまいごめんなさい」
私はみんなに頭を深々と下げた。
「ふふ、キトゥンよ。良い仲間を見つけたな。ではあちらの部屋に昼食が用意してあるでござるよ、皆で頂くとしよう」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
(おや? あの白いアバヤ姿の者は……)
入り口でユーサルペイシャンヌの一行が話し合っている様子を、2階の窓から眺めている人物がいた。
スパルタクス大佐である。
(まさか、ユーサルペイシャンヌのメンバーだったとはな。ふむ……)
スパルタクスは昨日のアーロンとデイビスの会話を思い出していた。
デイビスは確かこう言っていた、あのアバヤ姿の者を俺に推薦すると。
相当な実力の持ち主……というニュアンスだったはずだ。
「ヴァルツ! 居るか?」
「はっ! ただいま。失礼します」
「今日の合同演習だが……昨日来たあのアバヤを纏う者の実力が見たい。お前、あいつを指名してちょっと試してみろ」
「あ、あれはスティープ! まだ出かけなかったのか」
「ん……そう言えばヴァラキアに向かうんだったな?」
「はい、確かグレースさんも向かうと言ってました。一緒に行くのかもしれません」
「なるほどな……ところで今日の演習はあの方も来るんだったよな?」
「は! 予定では昼食休憩の後、すぐ講習を頂く予定であります」
「ふふ……ユーサルペイシャンヌには女性も多い、少し荒れるな。しかし彼女達メンバーの実力もそれでだいぶ判る筈だ。よし、我々も準備に入ろう!」
「はっ!」
(続く)
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