第13話、人形屋の裏稼業
俺はキララの務める斡旋屋に出向いた。
あそこは、今でこそ異世界職業斡旋所なんて名乗っているが、元々は裏家業専門の斡旋屋だ。
今でも、裏家業の方は続いている。
もちろん俺に回ってくるのは”裏”の仕事になる。
「これが今回の依頼よ」
一枚の写真と髪の毛を2本受け取る。
「報酬は?」
「二本よ」
一本が百万のオーダーだ。
二本で二百万。
「期限は?」
「明日の18時」
「承知した。
ここに持ち込めばいいのか」
「取りに行くわ」
俺は店に帰り、裏の井戸で禊をする。
素肌に白装束をまとい、神棚においてある切出を手に取る。
髪の一本を切出に巻きつけ、直径30cm高さ40cmの枝を選んだ。
護摩を焚いた作業場は静まり返っている。
切出一本で胸像を削り出すのは時間のかかる作業だが、この作業こそが念を受けることにつながってくる。
刃を入れる角度や深さに注意しながら、俺は10時間かけて大まかな姿を掘り出した。
外観を仕上げる前に隠し彫りを行う。
髪の毛を納める場所を作るのだ。
これが見破られれば、呪あるいは祝の効果が失われてしまう。
この胸像がどう使われるのか、俺は知らないし聞くのはルール違反だ。
俺は依頼の品を作るだけである。
呪と祝はよく似ている。
違うのは念に邪が入るかどうかだけだ。
この隠し彫りの技術こそが、人形師としての格の違いとなる。
当然、格は報酬に反映される。
慎重に隠し彫りを仕上げた俺は、仕上げに入る。
髪を整え、鼻を切り口を開いて目を入れる。
完成だ。
写真と切出に巻いた髪は護摩にくべる。
桐の箱に胸像を納め、油紙に包んだ詰め草で隙間を埋める。
最後に袱紗で包んでおしまいだ。
それを持って店に出るとキララが来ていた。
まだ刻限までは相当あるはずだが、キララとはこういう女なのだ。
「早いのね」
「ああ、順調に進んだからな」
袱紗をキララに渡して報酬の2百万を受け取る。
もちろん、領収書などは書かない。
「そうそう、100円のガチャが品切れよ」
「ああ、追加しておく」
「もっと高く売ればいいのに」
「子供に、そんな金は使わせられねえよ」
キララが来ると、いつも集中力アップのガチャが売り切れになる……
「じゃあね」
「ああ」
さて、少し木を削って寝るかな。
異世界職業斡旋所 【あなたの能力を違う世界で役立ててみませんか】 モモん @momongakorokoro3
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