浦島太郎

第9話、河童

「ごめんください」


「はい、いらっしゃいませ」


「あの、河童な私でもお仕事紹介していただけるんですか」


「大丈夫ですよ。

では、こちらに、ご記入をお願いします」


「はい……できました」


「拝見いたします。

お名前は河原美智子さん。31歳、独身。

種族は河童で、特技は水中での活動。

息継ぎは必要ないんですか?」


「この甲羅の中で酸素が発生しますので、何時間でも大丈夫です」


「あとは、尻子玉抜き……これって?」


「尻子玉というのは魂の事です。

魂を抜いて放置すると死んじゃいますけど、1時間以内なら復活できます。

やってみましょうか」


「いえ、遠慮……!

ちょうどいいお仕事がありますよ。

カメになってみませんか」


「カメですか……似てますけど……」


「依頼主は乙姫様で、これは繰り返し行われますので、長期契約可能です。

最近は、子供も理屈っぽくなってきて、浦島太郎はなんで水の中でも平気なんだって、投書が相次いでいるそうなんです」


「はあ……」


「この尻子玉抜きがあれば、ほら……」


そういう訳で、私はカメのお仕事をいただきました。


最初は砂浜で子供たちに虐められるシーンからです


手足を丸めて、河童だとバレないようにしないといけません。

河童だってバレたら怖がられちゃいますからね。


少しすると太郎さんがやってきて、子供たちを追い払ってくれます。

ここで注意しなくてはいけないことは、立ち上がってはいけません。

あくまでも四つん這いで海に帰ります。


「お礼に、竜宮城にお連れ致します。

どうぞ、背中にお乗りください」


カメがしゃべることについてはスルーなんですかね……


それから、ここでも注意です。

子供たちに残酷なシーンは見せられないので、尻子玉を抜くのは海中に引きずり込んでからです。


こうして無事、浦島太郎は竜宮城に到着します。


私の出番はまだあります。

ブレイクダンスを披露して、帰りの送り届けがあります。


でも、何百年も経っているのに気づかないって、太郎さんもいいかげんアレですよね。


帰りはまた、尻子玉を抜いて、仮死状態の太郎さんを送り届けます。


太郎さんを横抱きにして、玉手箱まで持たなくてはいけません。

結構ハードなんですよ。


こうして、無事、太郎さんを浜にお届けしました。

えっと、砂浜の先には、防波堤が作られていて、その向こうに高層ビルが見えます。

波間にはサーファーやウィンドサーフィンを楽しむ人たちが……

ああ、海の家も出てますね


「どこだここは!」


「いやだなぁ、元の砂浜ですよ。

では、私はこれで……」



「待てぇー……」


太郎さんの叫びが空しく響くのでした。


めでたし めでたし …………

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