第八章 花火、散り落ちて先
第六十五話 新感覚夏季限定アイスには合成着色料はふんだんに使われております!
「なるほど~。『ダイチ』に子どもがいたとして、
みぽりんは彼にしては珍しく、顔と目を、僕とすいにしっかりと
みぽりんには「鳴らし山」入山のため、僕自身を鍛えることに骨を折ってもらった――なんだかんだで体力もついてきてる――わけだし、そのことのあらためてのお礼を兼ねつつ、
「格闘センスの面でも、そっちのほうがよっぽど説得力あるよね~。
「……そのことは自分が一番知ってますよ」
僕は
「となると、やっぱり逢瀬くんが言う通り、永盛くんが書いた記事の
「はい、そうなんです。そこさえ解決すれば、あとはひっかかるものはないんですけど……」
「前に逢瀬くんたちがニアミスして以来、彼女はまだ
彼は少し
「僕も彼女を探すのに、本気を出そう。ちょっと気になることもあるしね~」
「え?!」
思ってもみない言葉だった。
「幸い、ワワフポの事務的なことはオメガくんがやってくれてるから、時間はあるんだよね~」
「あ、なるほど……」
「ボクがやるより三倍早いんだもん、助かってるよ~」
「それはみぽりんが……」
僕は言葉を切った。
「それはみぽりんがダメな大人だから」……、恩人には言うまい。
「ねえ、ダメな大人」
僕の隣で言葉少なになっていたすいが、僕の心でも読んだように
「ヨッシーが『ダイチ』の子だって記事を
みぽりんは「ん~?」と口をもごもごさせながら、目だけをすいに向ける。
「さすがに同じ
すいは
「それに、今その記事を出してもワワフポは日刊紙じゃないしね。世に出るのは早くて二か月後だよ~」
「インターネットニュースとか、ワワフポはやってないの?」
「裏社会寄りの内容を扱うワワフポの性質上、やってないね~。そんなハイテクな組織でもないし……。うぇへっへぇ……」
「なに? 阿武隈さん。なにか、焦ってる~?」
そう。それは僕も感じていたのだ。
「鳴らし山」を下りて以来、彼女は時折、何か思いつめているような瞬間がある。それで僕が声をかけてもすぐに彼女はいつもの調子に戻り、はぐらかされてしまう。言葉にできない不安を少し、僕は感じていた。
「べ、別に~。みぽりんはダメな大人だって、あらためて思っただけだっちゃ~」
こんなカンジ……。そらトボけるのが下手くそなのはいつもの調子なのだけど……。
すいはソファに戻ってくると、僕の隣に腰を下ろした。みぽりんは見透かすような視線を一瞬だけ彼女に送ると、「というわけだから~」と言葉を続ける。
「永盛くん探しはボクに任せてね~」
僕は、「みぽりん」と言葉を挟んだ。
「どういう手順で永盛さんを探すのか、教えてもらえないですか」
「ん~? どうして~?」
「僕たちの方でも、探してみようと思うんです」
「そうだね……。彼女はね、『脇役』体質のくせに――いや、だからなのか知らないけれど、『
「『賑やかな』……『場所』? 人がいっぱいとか、そういうこと?」
「そうそ。だから、彼女の身内をあたったあとは、そういうところに足を向けてみようと思うんだ~」
言われてみると、落ちぶれているとはいえ、テーマパークである「カルチャーランド」に永盛さんがいたことは、行方をくらましている人物にしては少しおかしな話だ。誰にも行き先を告げず行方をくらますからには、何かしら身を隠す理由があるってことだものな……。それでも「賑やかな場所」に姿を現してしまう、永盛さんの哀しい『究極の脇役』体質……。
「わかりました。僕たちも『賑やかな場所』、回ってみようと思います」
「ムリしすぎないようにね~」
「そうそ」とみぽりんは付け加えた。
「たいしたことじゃないかもしれないけど、思い出したことがあるんだよね~」
「思い出したこと?」
「ボクがキミタチくらいの年の頃、まあボクも
僕とすいは、同時に色めきだった。
「ど、どういうことです?!」
「うん、その頃、裏社会のある優秀なエージェントの噂が広がってきててね。その人物が『阿武隈』という通り名で、『奇怪な武術』を使う、って話なんだ~」
「『阿武隈』で『奇怪な武術』って言ったら……」
僕はすいに顔を向ける。彼女も考え込むように顔を
「屁吸術の使い手ね……。たぶん……」
「『阿武隈』っていうのは、屁吸術の
みぽりんがすいに目を向けて
「そんな話は、少なくともワタシは聞いたことがない。お師匠も、単に『
「う~ん。やっぱり、たいしたことじゃないかもね~……」
僕はひとつ思い当って、「その」と割って入った。
「『阿武隈』っていうエージェントが、もしかすると……『ダイチ』?」
「う~ん……。実は、その『阿武隈』という人物の噂の直後、さらに勢いのある『ダイチ』の噂が広がって、もう『阿武隈』のことは聞かれなくなったんだよね~」
「じゃあ、『ダイチ』とは違うのか……?」
「いやあ、コードネームが変わることはよくあることだから、同一人物――つまり、『阿武隈』が『ダイチ』である可能性はあるね~。もちろん、別人である可能性も。なんとも言えないな~」
「そうですか……。すいのことが判ると思ったんだけど……」
十数年前、「ダイチ」と同じ時期に裏社会で名を売っていた「阿武隈」……。屁吸術の使い手ということなら、「阿武隈」という名も加わって、その人物はすいに関係があるのは明白だ。すいが「ダイチ」の子という、僕たちの予想との関連は……?
ダメだ。頭が混乱してくる……。
「ワタシのことはどうだっていいよ~!」
僕の
「ひーみんを探して、ヨッシーが『ダイチ』の子じゃないってことを完全に、まっさらに、まるっと明らかにしよっ?! ね! そして終わりにしようよ!」
すいの言葉尻にまた、例の不安が
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「まったく! みぽりんも愚にもつかない情報でワタシのヨッシーを
ワワフポ事務所からの帰り、バスを待つ停留所にて、すいはプリプリしながら言った。
「これアレだわ! 家に帰ってアイス食わんと収まらんヤツだわ!」
「……アイス、好きだね」
「んだ! 夏季限定、『フローズンシチリアレモン&三種のベリーごちゃ混ぜ』味がワタシを待ってる!」
そういえばそんな怪しげなカップアイスを買い込んでたな……。
一転してウキウキしだしたすいをよそに、僕はふと、バス停の掲示板に目を留める。
そこには一枚のポスターが掲げられていた。一面の夜空に拡がる、二輪の花火。「
この花火大会は
「ねえ、すい」
僕はほとんど無意識に――隣でよだれを垂らしている彼女に、呼びかけていた。
「ん? どした、ヨッシー」
「この花火、行ってみない?」
すいがポスターに顔を近づける。
「花火か~。遠くでやってるのを見たことしかないな~……。来週ねぇ……」
すいは、ニマニマとした顔で僕に向き直った。
「な~に、ヨッシー。もしかして、デートのお誘い?」
「…‥‥うん。そうだよ」
僕は真っ直ぐとすいの目を見つめて、そう告げた。
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