第22話 『ファイヤーワイバーン』
マイマたちが今いるダンジョンは『レベル22の魔人ダンジョン』
人型の魔物が出てくるダンジョンであり、階層は5層。
1層から3層まで、ゴブリンやコボルトなどの小型の『魔人』種の魔物が出現し、4層からはオークやリザードマンなどの中型の『魔人』種が出てくる。
そして、5層のボスの間。
そこにいるのは、巨大な翼をはためかせる魔物。
鉄よりも強靱な鱗に覆われた赤い体。
生えている牙はナイフよりも鋭い。
つまり、
「ド、ドラゴンじゃないですかっ!!」
クロルは、ガタガタと震えながら扉の先にいる魔物をこっそりとみる。
ボスの間の扉を少しだけ開けてのぞき見しているのだ。
「な、なんで『魔人種』のダンジョンのボスがドラゴン!? なにを考えているんですか!!」
「ドラゴンじゃなくてワイバーンだけどな。翼と脚が分かれていないし」
「ワイバーンもドラゴンですよ! 立派な!」
怯えるクロルをよそに、マイマは落ちついているし、ヒヒロは新しいおもちゃを与えられた子供のように目をキラキラさせている。
「うおぉぉぉ……戦いたい。やっていいか? アレ?」
「ダメだ。クロルの役目だって言っただろ?」
「いや、戦ってくれるなら全力で譲りたいのですが……というか、帰りませんか? 『緊急脱出装置』は使えますし」
「緊急事態でもないのに使える訳ないだろ? 使用料取られるぞ? もったいない」
「緊急事態ですよ! ドラゴンと戦うなんて!」
クロルの反論に、マイマはヤレヤレと肩をあげる。
「あのな。俺たちをここに入れた管理者が緊急事態なんて認めるわけないだろ?」
「う……」
「緊急事態と認められないと、『緊急脱出装置』を使用すれば高額な使用料を請求される……そういえば、俺たちをサキュバスに『チャーム』させたあと、クロルさんはどうやって帰るつもりだったの?」
「それは、それこそ『緊急脱出装置』を使って……」
サキュバスの『チャーム』を使用されたあとの男性は、とても動ける状態にならない。
かといって、クロル一人でゴブリンたちがいる道を戻ることも出来ない。
そのため、『緊急脱出装置』を使用しての帰還しか方法がないのだ。
「じゃあ、それも狙いだろうな」
「え?」
「『緊急脱出装置』の使用料で借金を背負わせる……その借金をどうやって返させるつもりだったのか。けっこう気に入られていたみたいだしね、あの4馬鹿に」
マイマの予想にクロルは身を震わせた。
どうやら、マイマたちだけでなく、クロルもターゲットだったようだ。
「でも、じゃあ……」
「レベル10以上のダンジョンになると、ボスを倒すと奥に帰還用の階段が現れるから、それですぐに帰れる。そろそろ夕食時。おなかも空いてきた」
「やっぱり倒すんですか、アレ」
クロルはガックリと肩を落とす。
「見た感じ、ファイヤーワイバーンの通常種だから、ギリギリランク『C』だ」
「ギリギリって」
「『B』ギリギリの『C』」
「化け物! ただの化け物ですそれ!私は『D』相当のサキュバスも倒せないんですよ!!」
もう、クロルは泣いている。泣くしかない。
「『ニンジャ』になりたいんだろ? じゃあ覚悟を決めろ」
「覚悟……」
「安心しろ。『誘導』をちゃんと使えばランク『C』までは倒せる」
「ちゃんと使えばって……」
道中、マイマからクロルはいろいろレクチャーを受けていた。
しかし、実戦で試してはいない。
試す前にヒヒロが魔物たちを倒していったからだ。
「それに、俺が『援護』するんだ。何か不安な点があるか?」
同級生の、しかも雑魚と呼ばれる『援護』クラスの生徒。
しかし、マイマに援護されると思うと、不安なんてかけらもなかった。
「……わかった。頑張ります」
ぐっと、顔を上げたクロルの目には、涙がなかった。
ボスの間の扉を開ける。
そこに横たわり眠っているのは、本来なら、数年かけて様々な訓練を受けた果てに待つ、圧倒的な強者。
倒した者は例外なく『英雄』と呼ばれる魔物の頂点。その端。
『ドラゴン』種に位置する下位の魔物。
ファイヤーワイバーン。
冒険者なら誰もが恐れ、そして憧れる存在。
ゆえに、彼もまた暴走した。
「クッケエエエエエエイ!」
「グギャァアアアアア!?」
扉を開けた瞬間、ヒヒロが飛び出して起きあがろうとしていたファイヤーワイバーンの胸を思い切り蹴り飛ばす。
ファイヤーワイバーンは可哀想な声を上げながら壁に激突した。
「クロルが戦うって言っただろ! なにしているんだこのバカ!」
マイマはすぐに縄でヒヒロを捕まえると、そこら辺に転がす。
「いや、せっかくのドラゴンだし、一回は拳を合わせないとなって」
「蹴り飛ばしたじゃねーか、アホ」
呆れたように転がしているヒヒロと会話しているマイマをよそに、クロルはポカーンと口を開けている。
「……ファイヤーワイバーンって蹴れるんだ。一トン以上はありそうなのに」
「おい。ボーとしてんな。次はクロルさんの番だぞ?」
「は、はい!」
後ろから肩をたたかれ、クロルは背筋を伸ばす。
「……でも、生きているんですか? ファイヤーワイバーン」
「生きていると信じたいが……」
ファイヤーワイバーンの上には、壁のがれきが乗ったままだ。
そのがれきがはねのけられる。
炎と共に。
「グギャァアアアアアアア!!」
ファイヤーワイバーンが口から炎を出しながら起きあがった。
どう見ても怒っている。
「お、良かった良かった。生きていたか」
クロルの頬には汗が流れている。
ファイヤーワイバーンが吐いた炎の熱気は届いているが、汗の原因は熱ではないだろう。
「いくぞ」
「は、はい!」
クロルは、怒り狂うファイヤーワイバーンに向けて弓を構えた。
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