第17話 打ち上げパーティー
『ホワイトオーク』を倒して3日後。
マイマはテンマナブの敷地内にある学生寮の角の建物にいた。
普段はダンジョン『ファーム』で生活しているが、一応学生寮に自分の部屋はある。
その部屋のベッドで、マイマは横になり腕を組んで寝ていた。
「可愛い寝顔。いたずらしちゃおうかなー?」
「起きているし、目も開けていただろうが。何しにきた? ミツヒ」
ばれちゃった、と舌を出したのは、学生服のような衣装で、シャツのボタンをへその位置まで外しているので赤い下着が丸見えになっている狐狸ミツヒであった。
「んー……暇だろうし、お話相手になってあげようと思って」
「いらない」
「ふふ……謹慎中なのに強がって、いいのかなー? これでも私、先生ぞ?」
くすくすと、妖艶な笑みをミツヒは浮かべている。
そう、今マイマは謹慎中だ。
理由は、先日のダンジョン訓練試験である。
「強くても『D』ランクの魔物しか出ない試験用のダンジョンに突如現れた『C』ランク相当の『ユニーク種』を倒したのにね。リーダーの言うことを聞かなかったって理由で一週間の謹慎処分で授業を含む学内の施設利用の禁止。災難だったねぇ、マイマ」
「別に。これが今の『テンマナブ』だろ? 世界最高峰の冒険者教育機関。実体は近年成り上がった新興国『世界樹国 ユグゴール』から送り込まれた人員が支配する腐った場所だ」
ミツヒは慣れた様子で戸棚からコップを取り出すと、ドロップ品のコーヒーを煎れ始める。
「元々は各国の優秀な人材が集まるから、国際政治の前座なんて言われていたのにねぇ。『世界樹国ユグゴール』はタブレットをはじめ、様々な情報機器を輸出して莫大な富を稼いでいるから、こういう寄付や資金援助で成り立っている組織だと力を持つのが早いこと。今では、この学校で『世界樹国ユグゴール』出身で、なおかつ親がほとんど貴族や豪商であることが確定している『英雄』クラスの生徒に逆らうやつなんてほとんどいないでしょ」
ミツヒは、つんつんとマイマの頬をつく。
「俺は別にこの学校の成績とかどうでもいいからなぁ」
「そう? 一応結果が出たから教えておくと、今回の試験、マイマ達は2位だったよ。結局『英雄』クラスの男の子たちが『ホワイトオーク』を倒せなかったのかマイナスだったみたいだね。『先生』たちにとって」
「本当に、どうでもいいな」
吐き捨てるようにマイマは言う。
「ところで、わざわざ来た理由はなんだ?雑談しにきたわけじゃないだろ?」
「ん? ああ、忘れていた。これ頼まれていた資料だよ」
ミツヒは、数枚の紙をマイマに渡す。
「クラスメイトの黄実 ミシュちゃんの資料。女の子の秘密を暴こうなんて、悪い子だねぇマイマ君は」
ミツヒのからかいを無視して、マイマは資料に目を通していく。
リアクションがないことに少々残念そうにしながら、ミツヒは言葉を続ける。
「ま、気になるのは分かるけどね。『世界樹国』の出身なら普通は『英雄』クラス。最低でも『討伐者』クラスに入れるはず。なんで『援護』なのか。それは分からなかったんだけど……そんな経歴の子なのに」
ミシュの資料に目を通し終わると、マイマはぐっと目をつむった。
「……なるほどな」
「どうするの? これから」
「どうもしないな。別に。関係ないといえばないからな」
マイマは、ミシュの資料をミツヒに返す。
「ふむ。それならいいけど。まぁ謹慎があけるまでにある程度整理はしていたほうがいいんじゃない」
「分かっている」
しばらく、無言の時間が続いたあと、呼び鈴を鳴らす音が聞こえた。
「……誰だ?」
マイマが玄関に近づくと声が聞こえてきた。
「マイマー! 開けてくれー!」
ヒヒロだ。
ヒヒロが大きな声で叫んでいる。
ヒヒロも謹慎中のはずなのだが。
「何しているんだよ。お前」
マイマの部屋は一番端で、人目もつかない場所であるが、騒がれると迷惑だ。
それに、謹慎中である。
玄関を開けて注意しようとすると、ヒヒロはそのまま部屋に入ってきた。
「おまえ、なんで勝手に」
「へーここにも部屋があるんだな。良い部屋だ」
ヒヒロが入ってきた時点で、もうミツヒは部屋から消えていた。
どこから出て行ったのか。
そもそも入ってきた方法さえわからないが。
「で、用件はなんだ? 用件は?」
「ん? ああ、これ焼いてくれ」
ドンとヒヒロは袋に入っているモノをテーブルにおいた。
「ウインナー?」
「焼き豚もある」
「これって、試験の時のドロップ品か?」
「そうそう。これでやろうぜ。打ち上げパーティー」
ニシシと笑いながら、ヒヒロは言う。
「イヤだ。なんでそんなこと……」
「じゃあ、任せた。俺はちょっと行くから」
「話を聞けよ、おい」
そのままドロップ品を置いて、ヒヒロは出て行ってしまう。
「……たく」
置いていかれたドロップ品の食材を見て、マイマはしょうがなく焼き始めることにする。
「なんで、俺がこんなことを……」
とりあえずヒヒロがおいていったドロップ品だけではバランスが悪いと思い、野菜も切っていく。
(まぁ、飯もまだだったし別にいいか)
ついでに自分の分も焼いていく。
ドロップ品のウインナーや焼き豚は高級品であるが、パーティーと言っていたし、問題ないはずだ。
そして、ちょうど野菜も焼き終えたときだ。
「ただいまー」
ヒヒロが帰ってきた。
「お帰り……というか、お前いきなり食材を置いてどこに行っていたんだ……って、おい」
帰ってきたヒヒロを見て……というか、ヒヒロの後ろにいた人を見て、マイマは思わず固まる。
「お、お邪魔します」
「こんばんは」
ミシュとサチだ。
「え、なんで二人が……?」
「呼んできた。打ち上げパーティーだからな。さ、入って入って」
「おいおいおい」
なぜかヒヒロがマイマの部屋の入室を許可する。
「あの、ご迷惑だったかしら?」
ミシュが気まずそうに言ってくる。
「いや、まぁ、いいけど……どうぞ」
ヒヒロが勝手につれてきたとはいえ、ここで断るのも変な話だ。
二人も部屋に入ると、興味深そうに辺りを見回す。
「えっと……一人?」
「どうみても一人部屋だろ?」
ミシュの質問の意図が分からない。
すると、ミシュ自身も不思議そうにしながら言う。
「そうよね……なんか、女の人がいた気がしたから」
女のカンというやつなのだろうか。
確かに、ついさっきまでミツヒが来ていたが。
「それにしても、謹慎中なのに二人が出歩くのが意外なんだけど」
「ヒヒロくんから、『教室やダンジョンにいっちゃいけないだけで、友達の部屋ならいいだろ?』って」
「私も」
「……アイツ、変な所で知恵が回るな」
確かに、授業や自主訓練の施設を使えないだけで、出歩くなとは一言も言われていないのだ。
「にしても、友達ね」
「……イヤ、だった?」
ミシュが申し訳なさそうに聞いてくる。
「ん? ああ、そういうつもりじゃなくて、友達なんて作る機会がなかったから、ちょっと新鮮な気持ちってだけ」
「友達を作る機会がなかったって……」
「……『色々』あったからな」
「おお!焼けているじゃん! 食って良いか!?」
ヒヒロが皿に置かれているウインナーと野菜に興奮している。
「ちょっと待て。というか二人も呼ぶならそういえ、全然量が足りてないぞ」
「え? あれだけ置いていったのに?」
「焼けていないって言ったんだ」
マイマは呆れてキッチンに向かう。
「とりあえず、先にそれ食べてて。追加で焼くから」
マイマは使用したフライパンを洗い始める。
「私手伝うよ」
「私も」
ミシュとサチが手伝いを申し出る。
「んーじゃあ、俺も」
料理に釘付けになりながら、悩みながらもヒヒロは言う。
「お前はいい。なんか怖いしそれに狭い」
ヒヒロに手伝われると、流れるように皿を割り、料理を焦がしそうだ。
マイマが拒否すると、ヒヒロは大人しく引き下がる。
「そっか」
「先に食ってていいぞ」
使用したフライパンや調理器具は二人が洗ってくれているため、マイマは追加の材料を冷蔵庫から取り出していく。
「これ、切ればいいのね?」
「ん? ああ」
ミシュがマイマが取り出した野菜を洗い、切っていく。
「……そういえばさ」
「なに?」
「なんで『援護』クラスに入ったんだ?『世界樹国』出身なんだろ?」
資料に書いていないことでも、本人に聞くことができる。
そう、『友達』なら。
ミシュは、少々恥ずかしそうに、視線をさまよわせたあと、答える。
「別に……ただ、父親と喧嘩したから、そのせい……かも」
「ふーん、そっか」
(『父親』ね)
マイマは、ドロップ品のウインナーを焼いていく。
パチパチと弾ける油の音は、微かに立ったマイマの心の波を誤魔化しているだろう。
じーとウインナーを見ていたサチがミシュに聞く。
「そういえば、大丈夫なの? 『魔人』種のドロップ品を食べるのは、『世界樹国』ではあまり歓迎されないんじゃ……」
サチの質問に、ミシュは一瞬戸惑うも、はっきりと答える。
「もう、食べちゃったし。今更だよ。それに今の私は『援護』クラスの『冒険者』。魔物のドロップ品くらい食べないと、ね」
あはは、と軽くミシュは笑う。
「なぁーまだかー?」
ヒヒロが、我慢できないと催促してきた。
「もう少しだ。というか、先に食べてろって言っただろ?」
「やだ。打ち上げパーティーだから皆で食う」
意外と、律儀なところがあるようだ。
それから、4人は楽しく食事をした。
学生らしく、にぎやかに。
とても楽しい時間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます