第16話 『ホワイトオーク』
魔物には通常よく見られる個体と別の特徴を有しているモノがまれに発見される。
『ユニーク』や『上位種』などと言われるそれらは、ほとんどの場合通常種よりも強力な個体であることが多い。
壁の向こうに隠された場所にいた『ホワイトオーク』も、そんな種類の一匹である。
ランクは『C』はあるだろう。
プロの冒険者が集団で戦っても勝てず、トップクラスの討伐者が必要になるランクの魔物である。
そんな『ホワイトオーク』は、部屋に侵入してきたドウレを叩きつぶしたあと、ほかの者たちも蹂躙していった。
ルウプもアーウィンも、ロクオも、『英雄』クラスなのでそこそこは強い。
おそらく、通常のオークなら、楽勝とまではいかなくても、ちゃんと力を合わせれば勝てる程度の実力はあったはずだ
しかし、『ホワイトオーク』には手も足も出なかった。
もちろん、討伐者クラスの女子たちなど相手にもならない。
戦いのさなか、ロクオが討伐者クラスの女子たちを『ホワイトオーク』に差しだそうとしたが、受けいれられなかった。
別に差し出されなくても、『ホワイトオーク』の方が圧倒的に強いのだ。
手に入れることが容易な贄をわざわざ受け取る必要などないということだ。
そして数十分。
ロクオ達4馬鹿と討伐者クラスの女子生徒達は全滅した。
守りに徹していたとしても、もった方なのだろう。
たとえ、『ホワイトオーク』が悲鳴を上げる討伐者クラスの女子生徒たちをいじめるのを面白がり、遊んでいたとしてもだ。
「ジェイケイジェイケイ……」
『ホワイトオーク』は、倒れ、気絶している討伐者クラスの女子生徒達を並べていく。
「ギャル、ギャル、キレイケイ? ……オトナシメ!オトナシメジェイケイ!! キター!!」
『ホワイトオーク』は物色していた女子生徒から、一人を選ぶ。
ロクオにセクハラされていた、おとなしめの女子生徒だ。
『ホワイトオーク』は、ぐひぐひと笑いながら、おとなしめの女子生徒の鎧を脱がしていく。
鎧の圧迫から解放されたおとなしめの女子生徒の胸は、その地味な見た目とは裏腹に、立派なモノであった。
「グフフフ! ジミキョニュウジェイケ! タマラナイ!!」
「……うっ……あっん」
『ホワイトオーク』はおとなしめの女子生徒を大きな手でつかむと、首筋を美味しそうに舐める。
「イタダキマー……」
そのとき、破壊音が部屋に響いた。
パラパラと瓦礫が降り注ぐ先には、二人の男子生徒がいる。
マイマとヒヒロだ。
「……くそ。無茶苦茶しやがって」
「へへ。どうだ。俺の『ホースインパクト』は」
「ただの頭突きだろ」
そんなことを言い合うと、毛先が青い、黒髪の少年マイマが、荒縄を手に巻きながら『ホワイトオーク』に向き合う。
「……へー、珍しい。『ホワイトオーク』か」
「じゃあ、あと任せた」
根本が赤い金髪の少年、ヒヒロが疲れたように近くの壁に寄りかかり座る。
「戦わないのか? 興味持っていたじゃないか」
「疲れたからなー。それに、よく考えたら俺マイマの戦いをしっかり見たことがない」
「さっき見ただろ。ゴブリンの群を蹴散らしたとき」
「あれでも本気じゃないだろ? 俺は本気のマイマの戦いが見たい」
ヒヒロが、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「……それが狙いか」
マイマは、呆れたように髪をくしゃりとかきあげる。
「言っておくけど、たぶんつまらないぞ?」
「つまらないって、どういう意味だ?」
ヒヒロの質問に答えるように、マイマは目を開く。
その目は、『ホワイトオーク』としっかり合った。
「ガッ!? ガァアアアアアアアアアアアアアア!!」
目があった瞬間。『ホワイトオーク』は握っていたおとなしめの女子生徒を放り捨て、マイマに向かっていった。
怒りではない。
恐怖からだ。
マイマと目があった瞬間に感じたあらゆる凶兆が、『ホワイトオーク』の理性を吹き飛ばし、錯乱させた。
「ガァアアアア!」
『ホワイトオーク』は金属の棍棒を振るう。
長さは3メートル太さ1メートルの鉄の棒は一撃で大岩を砕き、砂に変える。
爆発のような音が響き、マイマとヒヒロが立っていた場所はクレーターのように穴が空いた。
しかし、そこには誰もいない。
マイマも、ヒヒロも。
「マジか……速いな」
ヒヒロが、数メートル離れた岩の上で、感心したように声を上げる。
もう一人、マイマがいない。
『ホワイトオーク』にとっての恐怖そのものである男子生徒がいない。
『ホワイトオーク』はマイマを探そうと首を動かした……そのときだ。
「もう決着か」
ヒヒロの声と共に『ホワイトオーク』の視界が崩れた。
崩れながら、なんとか『ホワイトオーク』は振り返る。
そこには、腕から一本のロープを出しているマイマが立っていた。
いつの間にか、『ホワイトオーク』の背後に回り込んでいたのだ。
マイマの腕から伸びているロープはしっかりと『ホワイトオーク』の首に巻き付き、そして弱点である首のアザを削り落としていた。
『ホワイトオーク』の皮膚は、鉄並の強度があるはずなのに。
「……言ったろ? つまらないって」
マイマが話し始めた時には、『ホワイトオーク』の体は完全に消滅してしまう。
「すぐに決着がつくからな」
もう白い部屋に立っているのは、マイマとヒヒロしかいない。
微かに聞こえるのは、4馬鹿達と、討伐者クラスの女子生徒たちの苦しそうなうめき声だけ。
こうして、マイマ達のダンジョン訓練試験は終了したのだった。
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