第9話 ダンジョン訓練 試験開始
「よし。全員いるな。これよりダンジョン訓練の試験を行う」
マイマたちの学年主任である大柄な教師、追隈アラオは総勢500名以上の学生の前で今日から行われる試験について説明している。
ダンジョン訓練。
テンマナブにおけるもっとも実践……つまり、『魔境』に挑む際に必要となる技術について学べる訓練であり、入学してから一ヶ月後に挑戦出来る試験に合格することで参加できるようになる。
これまでは、一対一で魔物と戦う討伐訓練や、魔物がいない施設でのサバイバル訓練しか挑戦出来なかった生徒たちにとって待望の試験である。
実際に魔物が出現する人工のダンジョンに潜り、ダンジョンのどこかに隠された宝を探す。
ダンジョンから帰還する時間や、倒した魔物や持ち帰ったアイテムで順位を決める、大切な試験だ。
「試験は討伐者・英雄・援護のクラスからそれぞれチームを組んでおこなう。ちゃんと英雄と援護はセットだから心配はするな」
討伐者と英雄クラスが固まっている前の方から嘲笑が漏れた。
それもそうだろう。
今、学年主任のアラオは学年でもっとも成績が優秀なモノたちが集まる英雄クラスが、最下位の底辺が集まる援護クラスをサポートするから安心しろと言ったのだ。
「……逆なんだけどな」
「ん? 何か言ったか? マイマ」
「いや」
ぽつりとつぶやいたマイマに、すぐ後ろにいたヒヒロが話しかける。
ヒヒロがマイマが管理しているダンジョン『ファーム』に忍び込んで以来、ヒヒロはことあるごとにマイマに絡んでくるようになった。
他言はしていないようだが、少々うっとおしい存在ではある。
「試験に挑む組分けは各自のタブレットに送るから確認しておくように」
その後、試験の流れと細かい注意事項の案内のあと、解散となった。
これから、指定された場所に行き、試験に挑むメンバーと合流しなくてはいけない。
(アーチェリーのAか)
学園内にあるいくつかの談話室の一つにマイマと組むメンバーが集められているらしい。
指定された売店の近くの談話室を思い浮かべながらマイマは歩いていく。
「……で、なんでお前がついてくるんだ?」
すぐ後ろを歩いていたヒヒロに、マイマは質問する。
「え? だって同じチームだし」
「どういうことだ?」
「ん? だってまずは同じクラスで4人組を作れって言われただろ? だから作って申請しておいた」
「なに勝手なことをしているんだよ!」
今回の試験は、各クラスごとに4人組を作り、それを3組合わせて12人の一つのチーム、レイドで挑むことになっている。
仲間を募ることも冒険者に必要な技能であるためだが、マイマはヒヒロのチームを組んだ覚えがなかった。
なので、適当にあぶれたモノたちで組むことになると思っていたのだが。
「ちなみに、あと二人がこっち」
「よろしく」
「……あの、その」
ヒヒロの後ろにいたのは、学級委員の黄実 ミシュと保険委員の小狛 サチであった。
「……どうも。なんで二人が……」
「なんかマイマと組むって言ったらノリノリでさ」
「ちょっと! 飛飛色くん!」
ニカニカしているヒヒロに、ミシュが顔を赤くしながら食ってかかる。
「あの、そういうわけじゃないからね! ただ、ちょうど二人だったし、偶然というか……」
「……そうだ。せっかくだしチームを組むんなら下の名前で呼び合わないか? そっちの方が仲間っぽいし」
「下の名前って……」
「な、イイアイデアだろ? 委員長?」
「アンタは委員長呼びかい!」
ヒヒロとミシュは仲が良さそうだ。
「あの……よろしくね。お……マイマくん」
サチはおどおどしながらも、しっかりと下の名前で呼んできた。
「よろしく、サチさん」
なので、マイマも強調するようにサチを下の名前で呼んであげるのだった。
「さて、ミーティングを始めようか」
マイマたちに遅れること30分。
豪華な鎧を纏った4人の男子生徒と、学校で支給されている指定の鎧を着た女子生徒たちが談話室にやってきた。
来て早々、まるで主のように座り、仕切りだしたのは赤い豪華な鎧を着ている男子生徒だ。
「その前に自己紹介。俺は明石 ドウレ」
「川蝉 ルウプ」
「僕は羽矢風 アウィンだよー」
「大石 ロクオだ」
赤い鎧のドウレにつづいて、青い鎧のルウプ、緑の鎧のアウィン、黄金色の鎧のロクオが自己紹介をしていく。
(……コイツ等が、『英雄』クラスの生徒か)
実力ではなく、親の権力と金によってクラスが決まる現在のテンマナブの現状を、彼らが身につけている無駄に豪華な鎧がこれでもかと教えてくれる。
(しかし、なんで鎧を身につけているんだ?)
そんなことを思っている間に、冒険者クラスの女子生徒たちの自己紹介も終わったようだ。
順番的に、次はどうやらマイマのようだ。
マイマは、立ち上がり挨拶をしようとするが、それを赤い鎧のドウレが手で制する。
「ああ、必要ないよ。『援護』クラスの子なんて覚えるつもりないし」
「そうだな。時間の無駄だ」
青い鎧のルウプがドウレに賛同する。
「あははー興味ないもんねー」
「女の子……だけでいい」
緑色の鎧のアウィンが屈託もなく笑い、黄色い鎧のロクオが低い声で言う。
「ん、そうだな。とりあえず女の子たちは自己紹介してもらおうか。これから必要になるかもしれないし、ね」
ドウレが、『援護』クラスの女子生徒であるミシュとサチに無駄に慣れた感じでウィンクをする。
(ああ……チャラ男か)
別に自己紹介をしたいわけでもないので、マイマは大人しく席に座る。
(まぁ、モテそうだもんな。顔も整っているし、『英雄』クラスだから金もある。好物件だ)
そんな好物件に対して、ミシュとサチはどのような反応をするのか。
「黄実です」
「小狗……です」
名字だけ名乗ると、すぐに席に着いた。
サチは感情を出さないようにしているが、ミシュは確実に怒っている。
ミシュの反応は予想できたが、サチの反応は少々予想と違った。
(こんなところで感情を見せない態度、か)
二人の自己紹介に対して、特になにも言わず、二人と冒険者クラスの女子生徒たちにだけ笑顔を振りまいて、赤いチャラ男ドウレは話を続ける。
そう、話を続けたのだ。
それは、決してミーティングではない。
「じゃあ、今から指定されたダンジョンに行くから、ついてきて」
「はぁ?」
疑問の声を出したのは、ミシュだ。
「ちょ、ちょっと待って。今日は顔合わせとミーティング。それに準備の時間でしょ? 本格的な試験は明日って」
ミシュの意見は正しい。
顔も見たことがないような人間と、ダンジョンを探索するのだ。
いくら学校が用意した人工のダンジョンといえども、準備の期間は必要になる。
正直、1日でも少ないくらいだ。
ゆえに、試験の時間は今日を含め3日とられていた。
なのに、ドウレは呆れたようにミシュの指摘に笑って答える。
「大丈夫、潜るダンジョンは所詮『5』俺たちがいれば散歩するのと変わらない難易度だ」
「それに、これは試験だ。試験用の『宝』はすでに設置されているし、こんなレベルの低いダンジョンだと、ドロップ品もたかがしれている。だから、順位を競うのは主に『宝』を手に入れて帰還する時間だ」
ルウプがドウレの意見を補強するように言う。
「僕たちはなんといっても期待の新星。これくらいの試験、一番でクリアしないとね。『未知の大発見』とかあるならともかく、低レベルの人工ダンジョンにそんなのあるわけないし」
「大丈夫。俺が守るから」
アウィンが軽いノリで笑い、ロクオがミシュのことを気にいたのか、にたりと笑いながら親指を出す。
「でも、今からって」
ミシュの反論を消すように、ドウレは声を上げた。
「いいから、黙ってついてきなよ『援護』が。俺たちが試験をクリアしてやるって言っているんだからさ」
ドウレたちの目は、口調は、マイマを含む『援護』クラスの面々を、下に見ていた。
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