第2話

 『詩』――陽平が物心付いた頃から備わっていた特殊能力だ。発動条件は単純で『気持ち』を込めて詩う事、其れだけである。対象は人、物、どちらでも可能である。

 しかし、当然ながら、能力発動の代償もある。強い効力をもたらすには、それだけの気持ちが必要であり、身体にも大きな負担を強いる事となる。今日、発動させた缶コーヒーをホットにする程度ならば殆ど負担はないが、マウンテンバイクの速度を上げる様な中強度の効力をもたらそうとなると、負担を強いられる。クラスに到着した際に、二乗分の疲れが出たのもそのせいだ。

 陽平が今までの人生で、最も強い効力をもたらそうとした事、それは雷を止めようとした事であった。彼は幼い頃から雷が苦手で、ベッドの下に隠れて、止むまで寝る事が出来なかった。それ故、『詩』という特殊能力に気付いた直後の雷の日、彼は強い気持ちを込めて『詩』を発動させた――。


「雷神様よ、どっか行って~~~」


 忽ちのうちに雷は止んだ……同時に陽平の命も止みかけた――。三日三晩、高熱にうなされ、病床で代償の重さを真摯に受け止めた。

 又、効果範囲も限られていて、対象に対し、直接的に気持ちを伝えないと、能力は発動しない。以前、動画投稿サイトで『○○をうたってみた』という動画を『バズれ!』と気持ちを込めて投稿したが、再生数は全く伸びなかった……。

 そもそも、陽平にとって『詩』という特殊能力は、人生に彩を与えてくれる供え物程度しか考えておらず、邪な使い方など、微塵も考えた事がなかった。投稿動画をバズらせんとした事は一応、邪ではない――。


「自分の人生は自分で切り開くものだ――」


 陽平はこの信条を胸に、真っ直ぐに。

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