『詩』で伝えた気持ちは本物⁉
@janu118kamo
第1話
今日は少年にとって、何時もより数分遅い登校になってしまった。
「ヤバい、遅刻する!」
何時もは、朝の予鈴チャイムが鳴るのと同時にクラスに駆け込むので、このままだと確実に遅刻の運びである。
「仕方ない……」
少年は愛用のマウンテンバイクのサドルに腰を下ろし、少しばかりの覚悟を決めた。
「飛ばせ~飛ばせ~マウンテン~~」
急ぎの気持ちをお世辞にも上手とは言えない『詩』に乗せ、ペダルを僅かに早めに漕ぎ出す。気持ちが伝わったか如く、マウンテンバイクはまるで競輪選手が漕ぐ様な速度で高校へ向かっていく――。
学校の駐輪場に突っ込む形でマウンテンバイクを止め、下駄箱で靴を脱いで、スリッパに履き替える最中に、チャイムが鳴り渡る。
「急がなきゃ!」
階段と廊下を猛ダッシュ――無事、チャイムが鳴り終わる前に在籍している二年三組に到着する事が出来た。
「ハア、ハア――」
予想通り二乗分の疲れが出て、息を整えるにも一苦労だと、乱し気味の呼吸中に軽く溜息を漏らす。それでも、遅刻しないための代価と思えば、安い物だと少年はクラスの掛け時計を見やり、ウンウンと小さく首を縦に振る。
「おい、陽平、大丈夫か⁉ 疲れすぎだろ!」
隣の席の級友から気遣いの言葉を掛けられる。
「ちょっと、飛ばしすぎたからな……」
「もうチョイ余裕をだな――」
級友が半笑いで呆れながら小言を言おうとすると、担任が入って来た。
「また太田は……。あれだけ『廊下を走るな』と言ってるのに……」
担任のボヤキが級友達の笑い声を誘い、朗らかな少年はハニカミながら頭を掻く。
今日も穏やかな日常――。
昼休み、少年――陽平は数名の友人達と自動販売機コーナーに訪れる。季節は初冬、友人達は全員ホットの飲み物を購入したのに対して、陽平は誤ってコールドの缶コーヒーを選択してしまう。
「あっ、間違えた」
手にした瞬間に分かる、ちょっとした間違い。唯、今日は冷え込みがキツイ故、陽平はどうしてもホットな飲み物が飲みたくて仕方がなかった。
「ホット一息~」
少し友人達と離れた所で、缶コーヒーにちょっとした気持ちを込めながら、小声で即興の『詩』を呟くと、あっという間にホットな缶コーヒーに――。
「うわっ、アチチ! ちょっと気持ちを込めすぎたかな」
能力の加減を少し反省しつつ、再び友人達の輪の中へ。
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