自家製わらびもち

 堀川はテーブルに座っていた。

 妻はパートに出かけ、子供たちは学校へ行っている。


 ウイルス性疾患が蔓延し、堀川の職場にも、月数回、在宅勤務が回ってくる

 在宅勤務になって、電話だけのやり取りになった。


 職場に行かなくてもよいが、基本、外出は禁止されているため、一日中、家にいなければならない。


 在宅勤務が始まった当初は、誰にも会わずに済むし、家で、ゴロゴロ出来るしで、喜んでいたが、現実はそう、甘くなかった。


 全然甘くなかったのだよ。明智くん。


 妻が仕事の時は、勤務が始まるまでに朝食の洗いものを済ませないとダメだし、自分の昼ごはんも作らなきゃならない。


 職場でからは容赦なく、電話攻撃がやってくる。


 いつ、何時、かかってくるかもしれない電話。そのほとんどは、トラブル。解決にアイデアを絞り、部下に指示を与える。上司に根回しをする。


 大宮からのジャブ、今出川からストレート、よろけてよける。

 最後は、課長のアッパー、これは、効いたぜ。あんがとさーん。


 勤務が終われば、子供たちの塾の弁当作り、塾の送り迎えに忙しい。

 職場へ行くよりも忙わしい毎日。

 妻は、毎日、こんなに忙しく働いてくれてんのか、奥さまどうも恐れ入ります。


 疲れた。なんだかツッカレったよー。


 もしかして、もしかして、糖分が足りてないのか?


 もうすぐ、昼だ。

 俺は今、あれを欲しているのか?

 いや、待て、堀川!まだ、昼だぞ。

 まだまだ、明るい。

 待つんだ!堀川!待て!


 いーや、待てねえぜ。ダンナ!

 ちょーどっ昼どきだい!

 行っちまいなっ。やっちまいなっ。

 糖分な正義!糖分は正義!

 糖分を行っちまいなっ!やっちまいな!


 もー、こうなったら止まらない!


 堀川は寝室のベッド下に隠している、菓子ボックスへ駆けつけた。


 よーし、今日は何をたべよかっ、お兄さん!

 ちょっと、こちらへ寄っといで!

 あら、あら、お痛はいけません!

 優しく、そっと、扱って。

 そう、そう、蓋を開けまして、ゴソゴソ、ゴソゴソ、ゴッソ、ゴソ、、、


 ない?ない?ない?ない?

 ないですよ!はてな、大事なお菓子がございません。


 ちょっと、どーする?この気持ち!

 探して、探して、あったのは、わらびもち粉でした。

 ありがと、ありがと、きな粉もございます!


 これは、春の自粛中のとっておき!

 今は冬だが、構わない!構わないったら、構いません。


 さあー、イックぞーっ、おーーーっ!


 台所に移ります。雪平鍋を取り出して、わらびもち粉を投入じゃーっ。投入、投入、投入じゃ!


 わらびもち粉は、株式会社マエダです。

 わらびもち粉は、甘藷のデンプンです。甘藷はさつまのデンプンです!


 ここに、砂糖を加えます。

 おうちの砂糖は、沖縄黒砂糖。

 つづいて、つづいて水を加えます。


 ここで、泡立ち器を取り出して、おら、おら、おら。

 ぐるぐる祭りじゃーっ!

 ぐる、ぐる、ぐる、ぐるりんぱ。

 まぜ、まぜ、まぜ、まーぜ、まぜ。

 ほんのり、茶色く色ついた。


 ガスに火を付け、雪平鍋を火にかけるっ、火にかける。


 炒めしゃもじを手にとって、雪平鍋のかわいいあの子をかき混ぜる。


 だんだん、トロ、トロしてきたよ、ここで気をぬきゃ、焦げ、焦げだ。


 かき、かき、かき、かきっ、かき!

 かき混ぜると、練っては練って、練り回す。

 ネットリ、わらびの完成だ。

 バンザーイ!焦げずにできました!

 茶色く色艶、よろしいわーん。


 アツアツわらびもちを、トレイに開けて、平たく、平たく伸ばします。


 ネットリ、ネットリ、トレイにネットリ、、わらびもちを伸ばしますー、伸ばします。


 トレイに開けたわらびもち、これから、シャワーに入りましょ。


 蛇口を開けてーっ、トレイに水をかけまくりじゃい、シャワー?


 いや、滝行ジャイ!


 うまくなるには、滝行で身を清めよ!わらび、おぬしなら、できるはずじゃ!


 プルプル、プルプルりん、引き締まり、わらびもちができたわよー。


 きな粉をお皿に開けまして、沖縄黒砂糖こにゃにゃちは!きな粉と砂糖をスプーンで、混ぜ、まぜ、マゼンダ。


 さあー!わらびもちをスプーンですくい取り、きなこへダイブ!ダイブ!ダイブ!


 きな粉にまみれたわらび餅のやま、ツヤツヤ、プルりん、美しいわー。


 さあさ、器に盛って、テーブルに鎮座します。


 おはしでお一つ摘んで、ぷるりんちょ、ぱっくんちょ、お口に甘さが広がります。わらびもちが溶けていく。

 ぷるりん、ぱく、トロっ。あまっ。

 ぷる、ぱっ、トロ。

 プルパトっ。プトっ。


 最後の最後、一つを摘んでぱくっ。

 最後は、噛まず、舌の上で溶けていくさまを見届けます。


 ゆっくり、ゆっくり、甘さが広がり溶けました。


 ありがとう、わらびもち、あなたは、私の心です。


 ゆっくり、ゆっくり、溶けていく。

 甘みとともに溶けていく。


 ありがとうございました。

 ご機嫌よう。





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癒しの菓子 〜スイーツをいただきます〜 フジセ リツ @sfz

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