第五話

 初めの夢で覚えている事は靴紐が切れるところと、あのおじさんがその時に助けてくれた事。

 あとは次の夢で見たのと同じような会話をしていた事。あと、なぜかケンと自転車に乗ってた時にトラックに轢かれる事故にあった事。

 そのトラックを運転していたのは、あの靴紐が切れた時に助けてくれたおじさんだった事。


 二つ目に見た夢は記憶に少しおぼろげなところがあるけれど、一つ目の夢よりは記憶が確かという事。また同じく靴紐が切れておじさんに助けてもらった事と怪我をしたことりちゃんを駅まで送った時、事故にあった事。そしてことりちゃんが轢かれた事。それらを覚えている限り事細かにケンに話した。

 最後にこう締めくくって。


「私が見た夢の二つともが同じ日、9月26日だった」


 一つ目の夢は日にちをちゃんと覚えてないけど、でも二つ目の夢で私は同じ日付だったと感じていた。

 一つ目の内容をあまりに覚えていなかったせいで確証がなかったけど、今なら言い切れる。バラバラだったパズルのピースが少しずつ揃ったことで、今まで見えなかった全貌が少し見えたから。


「それって、今日って事だよな」


 ケンはパソコン画面に表示されている日付を見てそう言った。私はそれに対してゆっくりと頷いた。


「ねぇ、どう思う? こう言うことって、あるもんなのかなぁ?」


 正直今もこうしている状態が現実だっていう確証はないわけで、私はどこかこの光景がまた繰り返されるんじゃないかって思ってる。

 何が現実で何が夢なのか。


「タイプとしては二つじゃね?」

「タイプって?」

「予知夢なのか、お前が何度もタイムリープしてるか」


 ケンはまじまじとした表情なのに、言葉が非現実だったものだからそのギャップに私は一瞬頭を金槌でゴツンと叩かれたような感覚が走った。


「……えっ?」

「なんだよ」

「ケンの口からそんな非科学的な言葉を聞く時が来るなんて思ってなかったから」


 だってそういうのって、マンガや映画の中だけの話でしょ? ケンってどっちかといえばロジカルな人間だし、ケンパパの影響でなのか科学的に根拠がないと信じないというか。

 なにせケンパパが科学者だし。


「現実的ではないってだけで、あり得ない話ではないからな」

「そうなの?」


 どういうこと? 現実的ではないけどあり得なくもないって発想に、まず疑問なんだけど。

 現実的じゃないなら、非現実的って意味じゃないの? って思う一方で、なんにせよ、ケンが私の状況を信じてくれるのなら、なんでもいいや……って、思った。


「でも、予知夢だったとしたら何度も同じ日を繰り返す夢を見るのは変だからな。タイムリープして、お前が同じ日を繰り返してると考える方が、まだ自然だな」

「もし、タイムリープしてるとして、どうしてそんな事になってるんだろう? ってかどうやったらそんな事できるの?」

「そんなもん、知らねーよ」


 驚くほどにあっさり、バッサリ切り捨てられてしまった。


「ちょっと、信じてくれるんじゃなかったの? 私は真剣に困ってるんだから!」

「おい、カヨ、もう少し声のボリューム下げろって。周りが見てるぞ」


 ケンが肩を竦ませながら私をなだめた。その様子を見て私は思わず辺りを見渡した。

 ケンの言う通り付近にいる人達が迷惑そうにこちらを見ている事に気がついて、私も肩を竦めた。


「とりあえず、この後にやってくる出来事を考えよう。事故に遭った事と、なんでそうなったのかってとこ。あと場所だな。それを回避したらいいんだろ?」

「簡単に言うけど、一度目の時は場所もなんでそうなったのかも覚えてないんだってば。ただ、自転車に乗っててトラックに轢かれた事と、そのトラックに乗ってた人が、今朝会ったあのおじさんだったっていう事」


 ケンが私の名前を叫んでたような記憶があるからきっと、ケンと一緒にいたのかもしれないな、とふと思ったけれど、その時の場所も状況も覚えてない。


「さっきも説明したけど、二度目はことりちゃんが足を怪我してたから私とケンで駅まで送ってって、そこで事故に遭った。でも二度目はことりちゃんが事故に遭ったし、その直前私は自転車にぶつかりそうになって、その時にあのおじさんが私の側にいて、自転車にぶつかりそうになってた私の体を押したの。そしたらそのまま歩道から道路に飛び出す形になって、また私がトラックに轢かれそうになったところで、今度は何故かことりちゃんが轢かれたの」


 私はあの時の光景を思い出した。今も悪寒が走るほど目の前に広がる光景はとてもリアルなものだった。

 ケンが私を助けて歩道に逃がしてくれたように、ことりちゃんもきっと、道路に出た私を助けようとして、足を怪我していたにも関わらず飛び出したんだと思う。


「まずは、そのおっさんを見つけ出すのが先だな」

「見つけ出すって?」


 逃げる、の間違いじゃなくって?

 私は思わず耳を疑った。むしろ私はあの人から逃げることしか考えてなかったんだけど。


「見つけてどうするの? それって危険すぎない? あの人何するかわかんないし、それに私はあの人に殺されたんだから」


 厳密に言えば、一度は殺されかけたんだけど。うん、二度目の時もあの人は私を殺そうとしてた。あの時もきっと、トラックで轢かれるのを狙ったんだと思う。


「だからだろ、だからあのおっさんの居場所を突き止めておくのが先決だって言ってんだ。相手の行動を知っておかないと防げるものも防げなくなる」

「でも、見つけるなんてできるの?」

「お前言ってたろ、柊が事故る直前まであいつに跡をつけられてたって。学校出たところから駅まで。それが事実だとすれば、あのおっさんの方がこっちを探してるはずだろ。だから、俺らはその裏を突く」


 ……なるほど。今私達がしようとしているように、あの人も私を探して後をつけてきてた訳だから、相手の方から私を見つけに来るのか。

 私は思わず辺りを見渡した。実は朝からずっとつけられているのかもしれない。それらしい人影は店内で見当たらないけど……そこまで考えたところで私は思わず身震いをした。

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