第3話 いよいよ出発
あれからついに数日が経過し、今日はいよいよ事務所へ行く日である。
南たち、上位カースト勢は相変わらず俺をバカにしたような目で見てきた。
『おら、沖田ぁ!コーラ買ってこい!コーラ!ギャハハハハハ!』
カースト上位の今川 義弘が俺をいじりにかかる。
やつは自分がクラスのボスとでも勘違いしてるのかクラス全体を仕切ったり、命令したりするような少し可哀想なやつである。
『ちょ、みんなやめて。総雅を虐めないでほしい』
悠真がそういうもやつらはその言葉がまるで聞こえないかのように俺をいじり続ける。
ほんとこいつらってガキだよなぁ(悠真以外)
そんなつまらない日々が続いていた。
だけどうれしいこともあった。
あの日以降、麻里は俺に変に突っかかることが無くなった。
むしろ少し丸くなったと思う。
だって........
「ん、おはよう兄貴」
「おう。おはようさん」
挨拶なんて少しもしてなかった俺たち兄妹が今となっては挨拶、さらには
「兄貴、今日事務所行くんだっけ?」
「そうそう。よく覚えてたな」
「〜〜〜ッ!!うっさい。早くご飯食べよ」
「へいへい」
雑談やら世間話やら、そこら辺の兄妹の会話すらもできるようになったのだ。
単純にすごくない?
たった数日でここまで関係が進むとは。
お兄ちゃん泣きそう。
朝ごはんを食べてからちゃっちゃっと私服に着替えて、玄関のドアを開ける。
「んじゃ、行ってきまーす」
「兄貴、変なことしないでよー!!」
「行ってらっしゃ〜い」
履きなれたスニーカーを履き、家から出る。
これから俺は芸能界に入るのだ。
やはり少しウキウキしてしまう。
緊張と期待が半々といったところだ。
麻里も芸能界の人間だし変なことをしたらあいつにまで迷惑がかかるからそこは気をつけておかないと。
俺はそう小さく決意をした。
そのまま電車に乗り、揺られること約30分。
事務所の最寄りの駅に到着する。
そしてそこから徒歩で歩くこと約10分。
たくさんの高いビルが立ち並ぶなかPOWERFULの事務所は一際存在感を示して建っていた。
そこだけ別空間のような感じまでする。
「ほえぇ〜。大きいと聞いてはいたがまさかここまでとは。さすが一流音楽事務所」
「やっほっ〜い。総雅くぅ〜ん」
若干キショい猫なで声のする方を見てみると黒いスーツに身を包んだ池田さんが俺に向けて手を振っていた。
「あ、池田さんお久しぶりです。今日はよろしくお願いします」
池田さんの方へと近寄り、きちんと挨拶する。
こういう何気ない作法大事。
もしかしたら今日は社長さんなんかに挨拶するかもしれないしこういう所はきちんとしておかねば。
「こちらこそよろしくね。ではでは!事務所見学へと行きましょうか!!」
「はい!お願いします!」
張り切る池田さんに従うように彼女の半歩後ろをついて行く。
そして少しの沈黙。
池田さんのような明るい性格上、この空気に耐えられなくなったのか沈黙を切り払うかのように話題をふってくる。
「そういえば総雅くんの妹さんってあの沖田 麻里さんなんだね。びっくりしたよぉ」
「あぁ。よく言われます」
よく言われますとはどういうことか。
そこは自分でも分からない。
「今人気急上昇中だもんね、麻里さん。どう?学校とかでいろいろ聞かれたりしないの?」
「いえ、学校では兄妹ということは言ってないので・・・」
「あ、なるほどね。いろいろめんどくさいから?」
「まぁ、そんなところです」
実際は麻里に口止めされたのだ。
「あんたみたいな落ちた人間なんかとは一緒にされたくないから絶対言うな」
とまで言われたのだ。
あの時はさすがに堪えた。
ストレスで少し5円ハゲが出来もした。
でも、今は話せるように戻ったので結果オーライだ。
「っと、話してると着いたね。まずはここ!ジャジャン!レコーディングスタジオです!」
話しながら歩くこと数分。
そう言って入らせてもらった部屋はなんとレコーディングスタジオ。
マイクやらアナログミキサーやら機材一式がきちんと揃っている。
「すっげぇ」
自然と感嘆の声が出た。
「ムフーン!でしょ〜?ここのはハイスペックな機材ばっかだからレコーディングも完璧なんだよ!」
「さ、さすが一流音楽事務所!」
「さてさて!どんどん行っちゃいましょう!」
そうして次に入らされたのは机やホワイトボードなどが並んだパッと見、高校にもありそうな部屋だ。
「ここはミーティングルーム!グループごとに話し合いなんかをするところだね!」
「な、なんか憧れる!」
「でしょでしょ!さてさてお次は・・・・・」
それからダンスルームやボイストレーニングルーム、休憩室などありとあらゆる場所を案内してもらった。
そんななかで俺の心に浮いた気持ちはひとつ。
でけぇ!!
かなりでけぇ!!!
なんだここは!?
だった。
とにかく広いのだ。
ほんとに広いのだ。
エレベーターのボタンを見たら20階近くまであるらしい。
迷子になんてなったらたまったものではない。
あまりの驚きに前を歩く池田さんに話しかける。
「こんなに広いんですね・・・。迷子なりそう・・・・」
「大丈夫大丈夫!ところどころにマップ貼ってあるから!」
確かに周りを見渡してみると結構な数のマップが貼ってある。
この事務所、階数が多いだけでなくひとつの階がそもそも広いのだ。
俺の部屋何個分なんだろう?
考えるのはやめておこう。
気が遠くなる・・・。
「さて!次が最後だね!ここは私の担当するバンド(仮)の専用スタジオです!」
「専用?専用スタジオとか普通持つこと出来るんですか?」
「私の担当するバンド(仮)はPOWERFULの社長も期待しててね。まぁ、まだバンド名とかも決まってないんだけどね・・・。でも、技術だけで言ったら物凄く高いから!安心して!あと、総雅くんにはこのバンドに入ってもらう予定だから!」
「な、なるほど」
「それじゃあ、行こう!」
そう言って扉を開ける池田さん。
この扉の向こうには一体誰が待ち受けているというのか。
俺の心は踊り始めていた。
散々罵倒された挙げ句フラれた俺は超人気バンドのボーカルになってざまぁします 気候カナタ @kokixyz
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