第5話 装備作りのためには

 「父さん、エルジオンのお店はどうすんのよ。私達、明日帰るのよ!」

「あー今回はその予定だよな。」


アルドがエイミ親子の後ろで頭を掻く。


「あれ、エイミん家ってお店やってるの?」

「ええ、ウエポンショップよ。鍛冶屋と同じような感じだけれど、メイが作っているような装備は作ってないわ。」

「ふ~ん。なら、多少の心得はあるんだ。ずぶの素人じゃないんだね。」

「だとしてもだ。ここのやり方が全然違うと思うぞ。」


事情を知っているアルドが口を挟む。


「ザオル。ここに弟子入りして何が作りたいんだ。」

「ミグランス城の兵士が着ていた鎧と同じ物と、俺専用の武器。」

「父さん、そんなのいきなり作れる訳ないでしょう!」


再びザオルとエイミの親子喧嘩が始まりそうだったので、アルドは二人が言い合いを始める前に話しだした。


「まあまあ二人共落ち着いて。メイ、鎧って作るのにどれくらいかかるの?」

「簡単なつくりの物だと私で一週間かな。騎士団に納めるのだと、部品が多いからもっとかかるわよ。少なくとも一か月位?」

「なら武器は?」

「素材と種類によるかな。人によって作業効率が違うから、これ位って断言できないわ。まして初めて作るんでしょ?」

「「だよねぇ・・・。」」


アルドとエイミが頷いている。


「えっと、エイミの親父さんだっけ?」

「お、おう。」

「本当に弟子入りしたいの?」

「さっきはそう言ったが、俺の作りたい物の作り方を教えてくれる人なら、正直誰でもいい。」

「あ、そうなんだ。ならうちの親父に聞いてくる。」


メイは店の奥に駆け込んで行った。ザオルが弟子入りできるかどうか聞いてくれるらしい。奥で何やら話している声が聞こえたかと思うと、メイが戻って来た。


「ごめん、うちの親父は鍛冶屋の仕事があるからダメだって。」

「そりゃそうだろ。」

「まあ、普通はそうよね。」


メイがちらっとザオルの方を見て言った。


「でもね。親父が私で良ければ面倒見てやれってさ。」

「へ?」

「いっ、いいのかっ!?」


奥からメイの父親が出てきた。


「一つ聞くが―――うちで作り方を覚えた物を、お前さんは売るつもりなのかい?」

「いや、それはない。本当に個人的に欲しいだけだ。」


ザオルが即答した。


「なら大丈夫だ。やる気のある奴に教えるのは、メイこいつにもいい経験になるだろう。予定を教えてくれれば俺も仕事の調整ができるから、うちの作業場を使えばいい。道具は・・・俺は他人が使った物は使わない主義だから、お前さんが使ったやつは持って帰れ。同じものを新品で返してくれればいい。」

「おじさん、いいのか?」

「ああ。こんなに俺達の作った物をべた褒めしてくれるんだ。そんだけ好きなら多少無理してでも頑張るだろ。だが、お前さんも店を持ってるんだって?ここに来る間、お前さんの店の方を何とかできるんならメイに面倒みさせるよ。ただ―――」

「ただ?」

「俺ん家はそんなに広くないから、お前さんの寝る場所が無い。」

「それ位は俺の方で何とかしとくよ。多分じっちゃんに言っておけば、うち

で大丈夫だと思う。」

「そんなら、アルドに頼むわ。村長にも宜しく言っといてくれ。」

「分かった。」


「おじさん。多分ザオルは何回かに分けて来ることになると思うんだけど、一度来た時に何日位ここで修行できるのがいいんだ?。」

「う~ん。覚えたことを忘れないように、最初は一週間位はいたほうがいいな。慣れてくれば最低三日位で作業ができるようになると思うぞ。」

「そうか。ザオル、一週間ぶっ通しで店をを抜けることはできるのか?」

「まず今回帰ってみて、俺がいない間どうだったかを聞いてみないと分からないな。」

「週一日位なら、私がハンターの仕事を休みにして手伝ってあげてもいいわよ。これでもイシャール堂の看板娘だからね。」

「おお、エイミは看板娘なんだねぇ~それなら、私もここの看板娘ってことか!なんちて。」

「なんちて、なんて言わなくても、メイはここの立派な看板娘だよ。」


幼馴染のアルドが微笑んで言った。


 「そろそろ暗くなるから、今日はこの辺で俺の家に戻ろうか。おじさん、メイ。また明日三人でお邪魔させてもらうよ。今日はありがとう。」

「「ありがとうございました。」」

「おう。」

「いいっていいって。また明日!」


三人はアルドの家である村長宅へ戻った。ホスト役でもある村長と共に、皆で夕食を囲む。


「ザオル殿、初めてのバルオキーはいかがじゃったかの?」

「のんびりとしていて落ち着きます。」

「そうかそうか、気に入ってくれて何よりじゃよ。」


夕食が和やかなまま終わり、ザルドとエイミは来客用の部屋に行ってもらった。


「なあ、じっちゃん。ザルドの事なんだけど。」

「ああ、ザルド殿がどうかしたかね?」

「仕事の合間を縫って、バルオキーここに鍛冶屋修行に来たいって言ってるんだ。ただ、鍛冶屋のおじさんからは、鍛冶屋には人を泊める場所が無いって言われて・・・。」

「そうかそうか。うちから鍛冶屋に通ってもらうといい。」

「今回よりも長くうちに泊まることになっても大丈夫なのか?」

「ああ、勿論じゃよ。納得がいくまで修行してもらいなさい。」

「ありがとう。ザオルにもそう言っとくよ。」



 翌朝。朝食後、ザオルとエイミは帰り支度を可能な範囲で済ませた。アルドと合流し、三人でメイの鍛冶屋に向かった。


「おーっす!やる気があっていいねぇ。」


鍛冶屋の前を掃除していたメイが三人の姿が見えると声を掛けてくれた。


「「メイ、おはよう。」」

「師匠、おはようございますっ。」

「い、いやぁ~師匠とは照れ臭いなぁ。とりあえず店の中に入ってよ。」


メイはザオルに『師匠』と呼ばれて嬉しそうだったが、やはり恥ずかしいようだ。メイに続いて三人は鍛冶屋の中へ入った。


「よーし、それでは諸君!良い装備には何が必要か分かるかな?」

「「えっ?」」

「良質な材料。」


ザオルが控えめに答えた。


「おお~さすが弟子!分かってるねぇ。他に良い装備のために必要な物はあるんだけど・・・とりあえず、今日はこれから素材集めに行きま~す!」

「「「え?」」」

「おい、ザオルは非戦闘員だぞ。」

「アルド達がいれば問題ないって。今日行くのはヌアル平原だから。」

「あそこならザオルでも大丈夫だな。」

「ついでに、ザオルの作る武器の種類を絞りたいな~と思って。ねえアルド、ユニガンでも少し武器は見てきたんでしょ?」

「ああ。ザオルは両手持ちの剣か斧、槌辺りが良いのではないかと言われた。」

「ふ~ん、ならこの辺りかな。」


メイは鍛冶屋の奥から、店に置いてあった武器を三つ持ってきた。アルドに言われた三種類である。


「さ、ヌアル平原に行くわよ!三人はこれ手分けして持って来てね。」


メイは三人の目の前に武器を置くと、さっさと鍛冶屋を出て行ってしまった。


「あーメイがこうなったら仕方がない。俺達で手分けして持って行くぞ。ザオルも頼んだ。」

「お。おう。」

「悪いけど重すぎるのは勘弁して。」


三人で一本ずつ分担して武器を持ち、メイに追い付いたのはヌアル平原へ入った後だった。



 「よしっ、これで終わり~っと。」


メイは先行して魔獣を倒し、自分が使う素材を集めていたようだ。


「メイ、お待たせ。頼まれた武器は全部持って来たよ。それで、ここで何をするんだい?」

「ん~まずは、素振りかなぁ。バルオキーの中だと危ないでしょ。」

「まあそうだな。バルオキーには小さい子もいるし。」


いきなり素振りをしろと言われたザオルは面食らっていた。


「師匠、す、素振りですか?」

「うん。ザオルさんよ。まだどの武器を作るか決まってないだって?」

「ああ。師匠、ザオルでいいぜ。」

「だから~師匠なんてすごいもんじゃないってば。それよりザオル、まずはこの中の武器のどれでもいいから、持って素振りをしてみよう!」

「ええと・・・こ、こうか?」

 

ザオルもメイの勢いに押されて両手剣を持ち、素振りをしてみた。


「うん、いいね~。もうちょっといろんな動きをしてみようか。横に振り抜けるかな~?お~いいねぇ~。はい、反対側からも~。それじゃあ、次の武器行ってみよ~。」

「お、おう。」


ザオルは武器を斧に持ち替え、先程と同じように素振りを始めた。


「ザオル~、剣と斧、どっちがしっくり来る?」

「俺は斧の方がいい感じがする。」

「オッケー。最後に槌も試してみようか。斧と似たような感じかもしれないけど,刃が無いから斧と違って切れないよ~。さあ、槌も試してみようか。」

「はい師匠っ!」


斧を槌に持ち替え、ザオルは素振りを始めた。


ズシャッ。


不運なゴブリンがその場に倒れた。ザオルの一撃が致命傷となったようだ。


「あら、父さん戦えたのね。」


エイミが驚いてザオルに声を掛けた。


「んあ?」

「ほら、そこにゴブリンが一体死んでるじゃない。これ、父さんが倒したのよ。」

「そうだね~ザオルってば、魔獣倒せちゃったね~。」


まあ、ここの魔獣は弱いけどね・・・と言う言葉を、エイミの様子から何かを察したメイは飲み込んでおいた。


「せっかくザオルが倒してくれたから素材は貰っておこう。」


アルドがゴブリンから素材を回収した。


「あれ?ザオル戦えたんだ~?槌はどうだった?」

「使った感じは斧と似たようなもんだったな。」

「それなら斧と槌のどちらかにしようか。どっちがいいか決められそう?」

「師匠が言うならそうさせてもらう。それで、どう決めたらいいんだ?」

「う~ん。ザオルは武器を作ったら使う予定あるんだっけ?」

「いや、多分無いと思う。」

「そうかぁ~実際にこれから毎日使う訳じゃないんだねぇ・・・なら、ザオルの好きな方?」

「俺が武器としてロマンを感じられる方でもいいのか?」

「ロマンかぁ~うんうん、分かるよぉ~。いいねぇ!」

「それじゃなかったら、どっちがロマンを感じるか試すついでに、あそこの魔獣と戦ってみよう~!」

「おうっ!」


メイにうまいこと乗せられて魔獣に戦いに挑みに行ったザオル。その様子を見たアルドがエイミに話しかけた。


「なあ、エイミ。ザオルって戦えたのか?」

「私も目の前の状況に驚いているわ。でも、母さんが亡くなってからエルジオンで戦ってないのは本当よ。」

「もしかして、敵が合成人間とか機械じゃないから?」

「ああ~その可能性もあるわねぇ。」

「いずれにしろ、メイがうまいこと言って乗せられたザオルが、ここでは戦えるようになったってことか。」

「・・・かもしれないわね。全く、良かったんだか良くなかったんだか。」

「ははは・・・。」


こんなアルドとエイミの会話を他所に、多少手こずったようだが、無事に魔獣を倒し終えたザオルが物凄い勢いでメイの所に駆け寄った。


「師匠~~~っ、俺戦えたっす!」

「おー、見た見た。いい感じだったよ~。」

「俺、一生師匠について行きます!」


「「「は・・・?」」」


我に返ったメイが慌ててザオルに言い返した。


「そ、それは困るなぁ~私も、い、今すぐ・・・じゃないけど、そのうち結婚したいし。エイミみたいな私と同年代の娘がいるおっさんに付きまとわれたら、それこそチャンスが逃げてくじゃないっ。」

「妻に先立たれているから俺はこう見えても独身だぞ。」

「私だって、ついて来てくれるなら若いイケメンがいいっ!」

「師匠!俺は再婚するつもりはないぞ。」

「ちょっと父さん何言ってんのよ!そう言う話じゃないでしょうっ!」

「あー・・・メイ、なんか色々ゴメン。」



 その後すったもんだあった三人だが、無事にバルオキーからエルジオンに戻り、ザオルがメイに期間限定で弟子入りできることになった。


 エルジオンからバルオキーに何度も向かう間に、ザオルと合成鬼竜が意気投合して飲み友達になっていたりとか、ザオルが完成した装備をイシャール堂の応接室で眺めながら毎晩うっとりと色々呟いていてエイミに鬱陶しがられているとかは、また別の話。

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武器屋の情熱は時を越える 礼依ミズホ @mizuho01

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